インタビュー
写真集『交差』
/ 自宅のバルコニーから見つめ続けた8年間の記録。 /
日常の片隅で、見知らぬ人々との一瞬のつながりを映した写真集。
自宅のバルコニーから、目の前にあるバス停の風景を撮影し続けてきた写真家の中村享均さん。パンデミックを経て、街の景色が移り変わる中でも、日々バスを待つ名もなき人々の姿を収めた写真集『交差』は、ページをめくるたび、見知らぬ誰かと心がふっと交差するような不思議な感覚をもたらします。今回は中村さんに、作品に込められた想いや8年間の心境の変化、そして理想の写真集を形にするためのこだわりについてお話をうかがいました。
ファインダーを覗いている時間だけは、その見知らぬ人たちと
どこかでつながっているような感覚がありました。
今回の写真集『交差』を制作されたきっかけを教えてください。
コロナ禍前のことなんですけど、精神的に少し落ち込んでいた時期があって、家から外に出られない日々が続いていたんです。その頃に医師から「日光を浴びないとダメだよ」と言われまして。とりあえず自宅のバルコニーだったら出られるので、日光を浴びるために出るようになりました。ちょうど目の前がバス停だったので、朝起きてバルコニーに出て風景を眺めるのが日課になり、それを写真に撮り始めたのがきっかけですね。
バス停という場所を撮影すること自体には、何か特別な意味があったのでしょうか?
僕が普段撮っている写真って、基本的には自分の身近なものがほとんどなんですよ。だから特別なものを狙いに行くというよりは、自分の日常や記録の一環として、撮り始めたという感じですね。
▲日によって異なる、自宅から見えるバス停の風景写真
タイトルである『交差』という言葉には、どのような想いが込められているのですか?
人の人生って、家族や恋人といったごく身近な関係にならない限り、基本的に平行線のままで交わることはないと思うんです。けれど、僕がバルコニーからバス停を見つめてファインダーを覗いている時間だけは、その見知らぬ人たちとどこかでつながっているような感覚がありました。お互いの人生がほんの一瞬だけ交わっているような、そんな気持ちがあったので『交差』というタイトルを付けました。
▲写真集『交差』の刊行を記念して開催された個展「交差」
8年間という長い年月、毎日撮影を続ける中で印象に残っている光景はありますか?
バスって地域に密着した乗り物なので、利用するのも地元の方々が多いんですよね。毎日撮影していると、こちらが勝手に顔馴染みのように感じて、「あ、またこの人がいるな」と気づくようになります。例えば、表紙にも写っている女の子は、最初は小学生くらいでお母さんと一緒にバスに乗っていたんですけれど、年月が経つにつれて大きくなって、中学生くらいになった頃には一人でバスに乗るようになっていたりして。
そうやって人々の成長や変化を身近に感じる場面は、すごく印象に残っていますね。
撮影を継続していく中で、中村さんご自身の心境にはどのような変化がありましたか?
途中でコロナ禍になったり、周りの雑居ビルが壊されて新しいマンションが建ったりと、街も時代もいろいろと変わっていきました。人が減る時期もありましたけど、それでも人々は当たり前のようにバスに乗って前に進んでいるわけですよね。時にはいつも見かけていたご年配の方が急に来なくなったりして寂しさを感じることもありましたが、そうした営みも含めて「人はいろいろなことがあっても日々を生きているんだな」と感じるようになりました。
自分自身も撮影を重ねるうちに、少しずつ気持ちが前向きになっていった実感があります。
遠くへ撮影に出かけるのとは違い、ご自身の身近な領域でカメラを構える面白さや魅力はどこにありますか?
人って、案外、自分の身近な景色ほど見落としがちなんですよね。皆さんも自分の近所って、わざわざ散策しないじゃないですか。でも、じっくり観察してみると「こんなお店があったんだ」とか、いろいろな発見があるはずなんです。写真家にもさまざまなタイプがいて、遠くまで撮影に出かける人も当然いるんですけど、僕は「ドラマチックな光景は常に自分のすぐそばにある」と思っているタイプなんですね。
そういうことを今回の撮影で改めて感じたし、皆さんにも気づいてもらえたらいいなと思います。
上製本なら机の上に置いて、丁寧にページを
めくってもらえるんじゃないかと考えたんです。
写真集のサイズとして「横206mm×縦182mm」という変形サイズを選ばれた理由は?
▲縦横に大きすぎず、手に取りやすい変形サイズ
僕が撮る写真って、人間の視界に近い横長の構図のものが多いんです。だからスクエアに近いフォーマットの方が、横長の写真を大きく見せやすいという利点がありました。あとはロバート・フランクの『The Americans』という有名な写真集があるのですが、その規格を意識したのも理由の一つです。それに加えて、書店での販売という面でも考えました。大きい写真集って、売れにくかったりするんですよね。
手に取りやすさやページのめくりやすさ、書棚への収まり、持ち帰りの負担にならないことも含めて、このサイズ感を選びました。
▲「KYOTOGRAPHIE PHOTOBOOK FAIR」で陳列された本書(写真中央)の実際の見え方
今回、上製本を採用された理由は何ですか?
今回の作品は、定点観測だからこそ写っている人や街並みのちょっとした変化を、1枚1枚じっくり楽しんでほしいという想いがありました。ソフトカバーだと立ったままパラパラと手軽に見られてしまいがちですが、上製本なら机の上に置いて、丁寧にページをめくってもらえるんじゃないかと考えたんです。実際、一度ソフトカバーで束見本を作ってみたのですが、やっぱり8年間という年月をかけて記録した作品なので、その時間の重みをしっかり表現できるのは上製本だなと実感して決めました。
表紙に使われている用紙「レザック」の質感もとても印象的ですね。
用紙に凹凸があるので、一般的なポートレートだと写真の表現が少し難しい部分もあると思います。ただ、今回は人物そのものを写した写真というより、僕が見ている情景やイメージを捉えた写真なので、そこはまったく問題になりませんでした。それよりも、写真集の表紙って手で触れたときの感覚がすごく大切だと思うんです。レザックのような風合いのある用紙を使うことで、本を手にした瞬間の手触りからも作品への想いが伝わればいいなと思いました。
▲用紙「レザック」の凹凸にモノクロの写真を印刷したデザインの表紙
本文用紙に選ばれた「アラモードホワイト」の決め手は何だったのですか?
自分の写真のイメージに一番合った用紙を選びました。この写真集を発行するタイミングで写真展も開催したのですが、展示でもツルツルした光沢紙ではなく、少しざらつきのある和紙のような風合いのものを使ったんです。その方が、写真に奥行きが出る感じがしたので。ですから写真集の用紙選びでも同じように、素材感のあるものを探したんです。
ページをめくるたびに指先にもその感触が伝わるアラモードホワイトが、一番しっくりくると思い選びました。
レイアウトや構成には、どのような工夫をされたのでしょうか。
写真集において、写真のシークエンス(並び順)は全体の9割を決めるくらい重要だと思っています。今回は同じ場所を撮り続けた定点観測の写真なので、基本的には時系列順に並べました。バス停の後ろの建物が壊され、更地になり、新しいマンションが建っていくまでの変化がはっきりわかるのですが、普通に見せるだけだとどうしても単調になりがちです。ですから、あえて白紙のページを挟むなどして、思わず次をめくりたくなるようなリズムを作りました。
全編をモノクロ写真で構成された理由について教えてください。
実は、最初にバス停を撮影したとき、たまたま手元にあったのがモノクロのフィルムカメラだったんです。途中でデジタルカメラも使うようになったのですが、最初にモノクロで撮り始めたので、最後までモノクロで統一したというシンプルな理由でした(笑)。でも結果として、余計な情報が削ぎ落とされたことで、見る人が写真に集中できるようになったと思います。偶然でしたけれど、モノクロにして大正解でした。
写真集作りって熱量が高いぶん途中で相談したくなるんですが、
ちゃんと意思疎通ができたのは本当に心強かったですね。
今回、写真集を制作するにあたり「ガップリ!」を選ばれた決め手は何だったのでしょうか?
一番の決め手は、印刷コストとクオリティのバランスですね。自分で出版レーベルをやっているのでいろいろな会社を試してきたのですが、クオリティは最高だけど料金が高すぎるとか、逆に安いけど品質が低いとか一長一短で。
その点、ガップリ!さんは用紙の選択肢も豊富で、束見本も作れますし、上製本にしても「この仕様でこの料金で作れるんだ」と納得のいく料金設定でした。あとはやっぱり、やり取りの安心感です。ネット印刷サービスでありながら電話窓口があって、メールの返信もすごく早い。写真集作りって熱量が高いぶん途中で相談したくなるんですが、ちゃんと意思疎通ができたのは本当に心強かったですね。
本製作の前に「納品前サンプル」で現物を確認できたことは役に立ちましたか?
それはもう、本当に大きかったですね。写真集を作る上で、事前に刷り上がりや仕様を確認する作業は絶対に外せないプロセスですし、逆に言えば、それができないとお願いできないと言ってもいいくらい重要だと思っています。
実際に束見本を手に取ったことで、ソフトカバーではなく上製本にしようという判断もできましたし、データの差し替えなどの微調整も安心して行うことができました。
完成した写真集を初めて手に取られたときのお気持ちをお聞かせください。
製本もしっかりしていて、重厚感もあり、「本当にいい出来だな」と思いました。印刷も、想像していた以上に素晴らしい仕上がりでしたね。オンデマンド印刷でモノクロを刷ると、どうしても青っぽくなったり色転びしたりしやすいのですが、そういった心配も一切なく見事に再現されていて、本当に良かったです。
写真展をはじめ、書店やブックフェアなど、さまざまな場所で展開されていますが、手応えや反響はいかがですか?
▲国内外の出版社や書店が集うイベント「KYOTOGRAPHIE PHOTOBOOK FAIR」
評判はとてもいいですね(笑)。自分のギャラリーでの個展や写真集に特化した書店での取り扱いのほか、「KYOTOGRAPHIE PHOTOBOOK FAIR」などにも出展しました。購入してくださった方からは、8年の記録の重みはもちろん、表紙のレザックの手触りや製本も含めて、本としての完成度を高く評価していただいています。また、場所によっても反応がさまざまで、KYOTOGRAPHIEでは海外の方からの反響が大きかったですね。8年間同じ場所を撮り続けたことに「クレイジーだ!」と驚かれたり、派手な写真ではないので「写真集を作るのが怖くなかったのか?」といった質問を受けたり、写真の本質的な記録性について意見を交わす機会もあったりと、面白い手応えがありました。今後もブックフェアなどには積極的に参加していきたいと思っています。
▲多数の出展や来場者で盛り上がった「KYOTOGRAPHIE PHOTOBOOK FAIR」会場内
今回、ガップリ!で写真集を制作されて、改めて全体の感想をお聞かせください。
ずっと自分の中でこの写真集を作るタイミングを見計らっていて、あとはどこで印刷製本するかを探していました。
そんな中でガップリ!さんに巡り会えて、僕としては「本当に良いところを見つけたな」と思っています(笑)。
バルコニーから8年間バス停を見つめ、見知らぬ人々とのつながりを感じながら、
自身の気持ちも少しずつ前向きになっていった中村さん。
日常のドラマが詰まったこの写真集が、広く届いていくことを願っています。
他のインタビューを見る
- 作品集『とうきび畑からのおくりもの 丘の妖精たち 嵯城幸子とうきび人形作品集』
- オフィスタケウチ 様
- 作品集『田中正弘作品集』
- 橋本 伸也 様
- 作品集『234m』
- ゆの 様
- 写真集『CARLO SERGIO SIGNORI』
- 安部 大雅 様
- 記念誌『士別市立多寄小学校開校120周年記念誌』
- 藤澤 信吾 様
- 作品集『SMILE GAKU IGARASHI初作品集』
- 株式会社六り 様
- ART BOOK『Someday, Somewhere, Someone』
- yui yoshimura 様・yoshitaka furukawa 様・tomoko ogawa 様
- 図版『大正、阿佐ケ谷、高円寺。影印版杉並町誌附町名鑑』
- 図版研レトロ図版博物館 様
- スケッチブックシアター『いちかわのかぞえうた。』
- 「いちかわ かぞえうた」プロジェクト 様
- 画集『熊倉 雅 画集』
- 熊倉 雅 様
- 詩画集『∀KIKO pictures and poems』
- ∀KIKO 様
- 写真集『創立60周年記念写真集』
- 全日本写真連盟浦和支部 様
- 絵本『すてきなおとどけもの』
- 絵・神田瑞季 様 文・かのりんか 様
- 写真集『existence』
- 松元康明 様
- 植田祥月作品集『風にふかれて』
- BEKKO BOOKS 様
- 作品集『OUYO』/『空中オルガン』他
- 堀田展造 様
- 写真集『366Happy’s』
- 株式会社スタジオ366 様
- 教本『ママとあかちゃんのための りとぷち』
- ムジカリーナ 松本由美子 様
- 写真集『DIAMANTAIN』
- 黒木式 様
- にゃーご こうえんへいく
- 株式会社blue dreamプランニング ずむずむ®絵本 真下直子 様
- My Friends
- 作/くりくり 様 絵/ふっかー 様
- ありしろ雑貨店&ILLUSTRATORSポストカードブック
- ありしろ雑貨店 様
- IGA☆GURIO CALENDER
- いが☆グリオ実行委員会 様
- パンダのひこまろカレンダー Life / パンダのひこまろ うちわ
- パンダのひこまろ 様
- MONSTER'S STORY BOOK
- TOMASON 様
- のりまき のりちゃん
- 絵本とおひるね舎 甲斐 絵里(エリック ウーリ)様
- 平田五郎
- りふdeおは梨 様
- うまれもった ひかり / アゴのはずれた くるみわりにんぎょう
- えのもと かずき 様
- のりまき のりちゃん
- 絵本とおひるね舎 甲斐 絵里(エリック ウーリ)様
- Kalligrafien壁掛けカレンダー
- 蘆野ゆり子 様
- 『モノクロリウム』
- 未早 様
- 魔女のレストラン
- 株式会社グラフィッコ 様
- WHAT'S THIS?
- SAKURA 様
- たのしみながら少しづつ
- 山下 泰 様
- 「カレンダー」「手帳」「カードブック」
- yojibee 様
- ここに生まれてきたんだよ
- 伊敷トゥートリサ 様
- やぎちゃんと秘密の線香
- 八木 宏幸 様
- Fantasy
- Yuri Alfrancaix 様
- ちびおるめのひと駅の大冒険
- 社会芸術ラボORINAS 佐原香織 様
- 『itonami』
- はたらきアリ出版(著者 浜野かもめ)様
- C4 DESIGN LABEL CALENDAR
- 株式会社シーフォーデザインレーベル 様
- 智代の絵手紙(食)(心)(花)
- 虹色工房 様
- 日めくりカレンダー
- 有限会社アーデルバッティングドーム 様
- GARO
- クニプ― 様
- EVER GREEN / だいじょうぶ
- Fleurbrahman Art 様
- てふ ひらり はたり
- Akiko.B.Mimura様/スゲノマロ 様
- いちにち
- 横瀬芽実依 様
- 育てるタオル 育てる暮らし
- 株式会社 英瑞 様
- イトウってなーんだ?
- 猿払イトウの会 様
- てんぷら!声を聞かせて
- 社会医療法人同仁会 耳原総合病院 様
- バリアフリー戦隊ダンサナクセイバー ~心のバリアフリー編~
- NPO法人自立生活センターSTEPえどがわ 様
- いったい どうなっているんだぃ?
- 群馬医療福祉大学 村山明彦様 山口智晴 様
- マジック用絵本
- RYU(大迫龍太) 様
- 夏休みの思い出
- 緒方悠輝也 様
- あまのいわと
- 岡山県神社庁 様
- だって、くまだもの~歯医者さんへいく~
- コンシェルクリニックグループ 様
- クロとシロ
- 横尾勇樹 様
- れいぞうこさんちのおおげんか
- 佐久間千恵子 様・山本夏子 様
- Andre’s Wonderful Adventure1・2・3
- 森 マリエ 様
- さばくと少年
- 阿賀嶺壮志 様
- 一人じゃない あなたもだれかのLINK
- なぁちゃ 様
- Happy Sora no Osanpo
- mu-ma 様
- うしのあし ひとのあし
- 国立大学法人東北大学・東北アジア研究センター 様
- うみのなかってどんなとこ?
- まなべやすこ 様
- たびするウミガメ~これからのウミはどんなウミ?~
- 井出美藍 様
- くるくるおじさん
- Sakuchi(BOTTO) 様
- ジャンのきいろいリュック
- 中根富美代 様
- Peace of Harmony and Love
- たきざわたかこ 様
- 私たちの伝えたい日本のマナー
- 品川女子学院 様
- アイリス あてまの森のニホンリス
- あてま森と水辺の教室ポポラ 様
ガップリ!で印刷・製本した作品をご紹介「ガップリ!ギャラリー」
「ガップリ!ギャラリー」では、ガップリ!で印刷・製本したお客さまの製作事例をご紹介しています。
ギャラリーでは、作品の写真だけではなく、仕様や特徴、お客さまインタビューなども掲載しています。検索機能もあり、「製本タイプ」「サイズ」「用途」「オプション加工」「業種」から絞り込んで、素早く見たい製作事例が探せます。
「ガップリ!ではどんなことができるのか過去の作品を確認したい」「本づくりのヒントが欲しい」という方には参考になると思いますので、ぜひご覧ください。
日常の片隅で、見知らぬ人々との一瞬のつながりを映した写真集。
自宅のバルコニーから、目の前にあるバス停の風景を撮影し続けてきた写真家の中村享均さん。パンデミックを経て、街の景色が移り変わる中でも、日々バスを待つ名もなき人々の姿を収めた写真集『交差』は、ページをめくるたび、見知らぬ誰かと心がふっと交差するような不思議な感覚をもたらします。今回は中村さんに、作品に込められた想いや8年間の心境の変化、そして理想の写真集を形にするためのこだわりについてお話をうかがいました。
ファインダーを覗いている時間だけは、その見知らぬ人たちと
どこかでつながっているような感覚がありました。
今回の写真集『交差』を制作されたきっかけを教えてください。
コロナ禍前のことなんですけど、精神的に少し落ち込んでいた時期があって、家から外に出られない日々が続いていたんです。その頃に医師から「日光を浴びないとダメだよ」と言われまして。とりあえず自宅のバルコニーだったら出られるので、日光を浴びるために出るようになりました。ちょうど目の前がバス停だったので、朝起きてバルコニーに出て風景を眺めるのが日課になり、それを写真に撮り始めたのがきっかけですね。
バス停という場所を撮影すること自体には、何か特別な意味があったのでしょうか?
僕が普段撮っている写真って、基本的には自分の身近なものがほとんどなんですよ。だから特別なものを狙いに行くというよりは、自分の日常や記録の一環として、撮り始めたという感じですね。
▲日によって異なる、自宅から見えるバス停の風景写真
タイトルである『交差』という言葉には、どのような想いが込められているのですか?
人の人生って、家族や恋人といったごく身近な関係にならない限り、基本的に平行線のままで交わることはないと思うんです。けれど、僕がバルコニーからバス停を見つめてファインダーを覗いている時間だけは、その見知らぬ人たちとどこかでつながっているような感覚がありました。お互いの人生がほんの一瞬だけ交わっているような、そんな気持ちがあったので『交差』というタイトルを付けました。
▲写真集『交差』の刊行を記念して開催された個展「交差」
8年間という長い年月、毎日撮影を続ける中で印象に残っている光景はありますか?
バスって地域に密着した乗り物なので、利用するのも地元の方々が多いんですよね。毎日撮影していると、こちらが勝手に顔馴染みのように感じて、「あ、またこの人がいるな」と気づくようになります。例えば、表紙にも写っている女の子は、最初は小学生くらいでお母さんと一緒にバスに乗っていたんですけれど、年月が経つにつれて大きくなって、中学生くらいになった頃には一人でバスに乗るようになっていたりして。
そうやって人々の成長や変化を身近に感じる場面は、すごく印象に残っていますね。
撮影を継続していく中で、中村さんご自身の心境にはどのような変化がありましたか?
途中でコロナ禍になったり、周りの雑居ビルが壊されて新しいマンションが建ったりと、街も時代もいろいろと変わっていきました。人が減る時期もありましたけど、それでも人々は当たり前のようにバスに乗って前に進んでいるわけですよね。時にはいつも見かけていたご年配の方が急に来なくなったりして寂しさを感じることもありましたが、そうした営みも含めて「人はいろいろなことがあっても日々を生きているんだな」と感じるようになりました。
自分自身も撮影を重ねるうちに、少しずつ気持ちが前向きになっていった実感があります。
遠くへ撮影に出かけるのとは違い、ご自身の身近な領域でカメラを構える面白さや魅力はどこにありますか?
人って、案外、自分の身近な景色ほど見落としがちなんですよね。皆さんも自分の近所って、わざわざ散策しないじゃないですか。でも、じっくり観察してみると「こんなお店があったんだ」とか、いろいろな発見があるはずなんです。写真家にもさまざまなタイプがいて、遠くまで撮影に出かける人も当然いるんですけど、僕は「ドラマチックな光景は常に自分のすぐそばにある」と思っているタイプなんですね。
そういうことを今回の撮影で改めて感じたし、皆さんにも気づいてもらえたらいいなと思います。
上製本なら机の上に置いて、丁寧にページを
めくってもらえるんじゃないかと考えたんです。
写真集のサイズとして「横206mm×縦182mm」という変形サイズを選ばれた理由は?
▲縦横に大きすぎず、手に取りやすい変形サイズ
僕が撮る写真って、人間の視界に近い横長の構図のものが多いんです。だからスクエアに近いフォーマットの方が、横長の写真を大きく見せやすいという利点がありました。あとはロバート・フランクの『The Americans』という有名な写真集があるのですが、その規格を意識したのも理由の一つです。それに加えて、書店での販売という面でも考えました。大きい写真集って、売れにくかったりするんですよね。
手に取りやすさやページのめくりやすさ、書棚への収まり、持ち帰りの負担にならないことも含めて、このサイズ感を選びました。
▲「KYOTOGRAPHIE PHOTOBOOK FAIR」で陳列された本書(写真中央)の実際の見え方
今回、上製本を採用された理由は何ですか?
今回の作品は、定点観測だからこそ写っている人や街並みのちょっとした変化を、1枚1枚じっくり楽しんでほしいという想いがありました。ソフトカバーだと立ったままパラパラと手軽に見られてしまいがちですが、上製本なら机の上に置いて、丁寧にページをめくってもらえるんじゃないかと考えたんです。実際、一度ソフトカバーで束見本を作ってみたのですが、やっぱり8年間という年月をかけて記録した作品なので、その時間の重みをしっかり表現できるのは上製本だなと実感して決めました。
表紙に使われている用紙「レザック」の質感もとても印象的ですね。
用紙に凹凸があるので、一般的なポートレートだと写真の表現が少し難しい部分もあると思います。ただ、今回は人物そのものを写した写真というより、僕が見ている情景やイメージを捉えた写真なので、そこはまったく問題になりませんでした。それよりも、写真集の表紙って手で触れたときの感覚がすごく大切だと思うんです。レザックのような風合いのある用紙を使うことで、本を手にした瞬間の手触りからも作品への想いが伝わればいいなと思いました。
▲用紙「レザック」の凹凸にモノクロの写真を印刷したデザインの表紙
本文用紙に選ばれた「アラモードホワイト」の決め手は何だったのですか?
自分の写真のイメージに一番合った用紙を選びました。この写真集を発行するタイミングで写真展も開催したのですが、展示でもツルツルした光沢紙ではなく、少しざらつきのある和紙のような風合いのものを使ったんです。その方が、写真に奥行きが出る感じがしたので。ですから写真集の用紙選びでも同じように、素材感のあるものを探したんです。
ページをめくるたびに指先にもその感触が伝わるアラモードホワイトが、一番しっくりくると思い選びました。
レイアウトや構成には、どのような工夫をされたのでしょうか。
写真集において、写真のシークエンス(並び順)は全体の9割を決めるくらい重要だと思っています。今回は同じ場所を撮り続けた定点観測の写真なので、基本的には時系列順に並べました。バス停の後ろの建物が壊され、更地になり、新しいマンションが建っていくまでの変化がはっきりわかるのですが、普通に見せるだけだとどうしても単調になりがちです。ですから、あえて白紙のページを挟むなどして、思わず次をめくりたくなるようなリズムを作りました。
全編をモノクロ写真で構成された理由について教えてください。
実は、最初にバス停を撮影したとき、たまたま手元にあったのがモノクロのフィルムカメラだったんです。途中でデジタルカメラも使うようになったのですが、最初にモノクロで撮り始めたので、最後までモノクロで統一したというシンプルな理由でした(笑)。でも結果として、余計な情報が削ぎ落とされたことで、見る人が写真に集中できるようになったと思います。偶然でしたけれど、モノクロにして大正解でした。
写真集作りって熱量が高いぶん途中で相談したくなるんですが、
ちゃんと意思疎通ができたのは本当に心強かったですね。
今回、写真集を制作するにあたり「ガップリ!」を選ばれた決め手は何だったのでしょうか?
一番の決め手は、印刷コストとクオリティのバランスですね。自分で出版レーベルをやっているのでいろいろな会社を試してきたのですが、クオリティは最高だけど料金が高すぎるとか、逆に安いけど品質が低いとか一長一短で。
その点、ガップリ!さんは用紙の選択肢も豊富で、束見本も作れますし、上製本にしても「この仕様でこの料金で作れるんだ」と納得のいく料金設定でした。あとはやっぱり、やり取りの安心感です。ネット印刷サービスでありながら電話窓口があって、メールの返信もすごく早い。写真集作りって熱量が高いぶん途中で相談したくなるんですが、ちゃんと意思疎通ができたのは本当に心強かったですね。
本製作の前に「納品前サンプル」で現物を確認できたことは役に立ちましたか?
それはもう、本当に大きかったですね。写真集を作る上で、事前に刷り上がりや仕様を確認する作業は絶対に外せないプロセスですし、逆に言えば、それができないとお願いできないと言ってもいいくらい重要だと思っています。
実際に束見本を手に取ったことで、ソフトカバーではなく上製本にしようという判断もできましたし、データの差し替えなどの微調整も安心して行うことができました。
完成した写真集を初めて手に取られたときのお気持ちをお聞かせください。
製本もしっかりしていて、重厚感もあり、「本当にいい出来だな」と思いました。印刷も、想像していた以上に素晴らしい仕上がりでしたね。オンデマンド印刷でモノクロを刷ると、どうしても青っぽくなったり色転びしたりしやすいのですが、そういった心配も一切なく見事に再現されていて、本当に良かったです。
写真展をはじめ、書店やブックフェアなど、さまざまな場所で展開されていますが、手応えや反響はいかがですか?
▲国内外の出版社や書店が集うイベント「KYOTOGRAPHIE PHOTOBOOK FAIR」
評判はとてもいいですね(笑)。自分のギャラリーでの個展や写真集に特化した書店での取り扱いのほか、「KYOTOGRAPHIE PHOTOBOOK FAIR」などにも出展しました。購入してくださった方からは、8年の記録の重みはもちろん、表紙のレザックの手触りや製本も含めて、本としての完成度を高く評価していただいています。また、場所によっても反応がさまざまで、KYOTOGRAPHIEでは海外の方からの反響が大きかったですね。8年間同じ場所を撮り続けたことに「クレイジーだ!」と驚かれたり、派手な写真ではないので「写真集を作るのが怖くなかったのか?」といった質問を受けたり、写真の本質的な記録性について意見を交わす機会もあったりと、面白い手応えがありました。今後もブックフェアなどには積極的に参加していきたいと思っています。
▲多数の出展や来場者で盛り上がった「KYOTOGRAPHIE PHOTOBOOK FAIR」会場内
今回、ガップリ!で写真集を制作されて、改めて全体の感想をお聞かせください。
ずっと自分の中でこの写真集を作るタイミングを見計らっていて、あとはどこで印刷製本するかを探していました。
そんな中でガップリ!さんに巡り会えて、僕としては「本当に良いところを見つけたな」と思っています(笑)。
バルコニーから8年間バス停を見つめ、見知らぬ人々とのつながりを感じながら、
自身の気持ちも少しずつ前向きになっていった中村さん。
日常のドラマが詰まったこの写真集が、広く届いていくことを願っています。
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- ART BOOK『Someday, Somewhere, Someone』
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- 図版『大正、阿佐ケ谷、高円寺。影印版杉並町誌附町名鑑』
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ガップリ!で印刷・製本した作品をご紹介「ガップリ!ギャラリー」
「ガップリ!ギャラリー」では、ガップリ!で印刷・製本したお客さまの製作事例をご紹介しています。
ギャラリーでは、作品の写真だけではなく、仕様や特徴、お客さまインタビューなども掲載しています。検索機能もあり、「製本タイプ」「サイズ」「用途」「オプション加工」「業種」から絞り込んで、素早く見たい製作事例が探せます。
「ガップリ!ではどんなことができるのか過去の作品を確認したい」「本づくりのヒントが欲しい」という方には参考になると思いますので、ぜひご覧ください。
















