インタビュー
図版『大正、阿佐ケ谷、高円寺。影印版杉並町誌附町名鑑』
/ 歴史資料としても重要であり、 /
かつ当時のレトロ感満載の広告も楽しめる復刻本
東京の阿佐ケ谷、高円寺というと、たくさんの人が行き交い、生活を営んでいるイメージがありますが、この本からは大正末期に人口が爆発的に増加した時期の町のようすをうかがい知ることができます。また、多数掲載されている当時の広告もレトロ感があり、それらをながめているだけでも十分に楽しめます。この復刻本を企画・製作した「図版研レトロ図版博物館」の方にお話をうかがいました。
中身を読んでみると大正末期の阿佐ヶ谷、高円寺あたりの状況が
立体的に描かれていて、これはおもしろいと思ったんです。
最初に、「図版研レトロ図版博物館」はどのような博物館なのか教えていただけますか。
こちらは明治から大正、昭和初期にかけて刊行された図版資料を集め、一般の方へのシェアを目的に、公開することをコンセプトとした私設図書館です。メインで扱っているのは、科学系や技術系、デザイン系、それから戦前のカタログや商品見本帳みたいなもので、コレクションとしては割と珍しいものですね。もともとは古道具屋がインターネット上に出品する商品の説明を書くために集めていた、その道具が現役だった当時のカタログや図解本などの出版物がそのベースになっているのですが、こうした収集資料は、抱えこんでいても常に使うわけではないのに、他の方が見たいと思ってもご覧になれる機会がなかなかありません。そもそも、どんな資料が存在しているかがわからなければ、見ようとするきっかけすらないわけです。それで、集めた資料を公開しようという方向に動きました。
ユニークな博物館ですね。どうして収蔵品を公開するだけでなく、復刻本まで作ろうと思われたのでしょうか。
昨年夏(2022年)に大正末期の東京、高円寺・阿佐ケ谷地域のタウンガイド本『杉並町誌附町名鑑』を収蔵しました。ところが、本を綴じていた鉄線が腐食していて、ページを開いているとボキッと折れてしまうんです。それで直さざるを得なくなって、解体修理を行いました。その際に全ページスキャニングしたのですが、中身を読んでみると非常におもしろい内容で、当時の商店建築写真などの図版も貴重な資料と思われました。そこで、著作権保護も切れていることから、影印版として復刻する企画が急きょ立ち上がったんです。しかも、この本は非常に現存数が少なく、こういうものが復刻版としてあると役に立つのではないかという思いもありました。
『杉並町誌附町名鑑』を収蔵した理由はどのようなことだったのでしょうか。
当館では「これはおもしろそうだ」という資料を選んで収蔵しています。そのなかで、東京郊外の大正時代の店舗物件の写真は特に少ないものですから、多分この本には載っているだろうと思われた『杉並町誌附町名鑑』を入れてみました。そうしたところ案の定載っていたのですが、中身を読んでみると大正末期の阿佐ケ谷、高円寺あたりの状況が立体的に描かれていて、これはおもしろいと思ったんです。ただ、本の中に出てくるたくさんの番地が、この町のどこにあるのか、どこに当たるのかというのがはっきりわかりません。これに細かい番地が振られた大きな地図をつけたら、わかってくるのではないかと、そうしたらもっとおもしろい本になるのではないかと思って、今回の本を企画しました。ですから、ガップリ!さんに製作をお願いしたものでは未完成で、それとは別に大きな地図を復刻しまして、本が納品されてから、その地図を巻末に折り込みで取り付けました。
「当時の地域の状態が立体的に描かれていておもしろいと思った」とのことですが、それはどのようなことでしょうか。
番地を地図にプロットしていくと、どの辺にどんな業種の店があったかというのがわかる。個人の番地が載っているので場所を見つけるのは簡単ですけど、住民の職業名も載っていますから、どの人はご自宅でなんの商売をしておられたかもわかります。しかも「本籍」として府県名も載っていますから、どこから移り住んで来ているかなどもわかりますよね。そうすると、今年(2023年)からちょうど100年前に起こった関東大震災をきっかけに急激に人が移り住んできて、農村だった所が住宅地化したわけなのですが、そのときに、どのような人たちによって町ができ上がっていったのかが見えてきて、おもしろいなと思ったんです。大正11年に中央線の電車駅の高円寺と阿佐ケ谷ができたのですが、それまでの人口増加は非常に緩やかです。明治から1000~2000人ぐらいしか増えていないのに、駅ができた翌年に関東大震災が起こり、そこからガーッと毎年倍々に増えていき、いかに急激に変わったかというのがわかります。
本に掲載されている当時のお店の広告も、とても興味深いですね。
そこが一番面白いですよね。それもあって、この本はある程度は受け入れられるかなと思いますが、旧字かなで文語文なので、そこまで売れるものではないなと。一般にはあまり読み慣れない方が多いでしょうから、ちょっとキビシいかな、とは思っています。ただ、文章よりもいろいろなデータが載っているページの方が多いですから、意味がつかみづらいところは少ないのではないでしょうか。これでも大正期のこの手の本としては、図版が多いほうですよ。広告が多いのでこんなに写真が載っていますが、広告がないと本当に図版は少ないんです。それで、この本を作っていく過程で、もっとビジュアル的なカタチでも見せたいな、という想いがありまして、いろいろ埋もれている資料が出てきたこともあり、別冊の企画が持ち上がったのです。万事行き当たりばったりの進め方ですが、追加でさらに資料を集めたり調査したりしつつ、現在も編集作業中です。
100年くらいも昔の本の復刻版いうことで、
オフセット印刷とかがり綴じ、という仕様にこだわりました。
元の本はご自身でスキャニングされたそうですね。スキャニングする時に、大変だったことはございますか。
本が古く紙が劣化していて、どうしても歪んでしまいます。それを見苦しくない程度に修正するのと、写真は、当時にしては割と写りがよいほうですが、やはり今の図版と比べれば不鮮明な部分もありますので、それをより見やすいよう加工するのにいくらか苦心しました。あとスキャナーの付属のアプリケーションが、一旦修正して確定してしまうとやり直しができず、失敗するともう一度撮らないといけないので手間がかかりました。それでも全300ページ以上ありますが、スキャニング・画質調整して仕上げるのに3日で済みましたから、それほど「大変」ということはなかったです。
今回、新たに本のタイトルを付けられたのには、どのような意味があるのでしょうか。
元のタイトルが『杉並町誌附町名鑑』と堅苦しく、それではとっつきがよろしくないのでなるべくやわらかくしたい、ということで『大正、阿佐ケ谷、高円寺。』とつけました。また、別に作って被せたカバーや帯は、なるべく先入観なくお手に取っていただくきっかけにしたい、ということでキャッチーなデザインを目指したつもりです。ちなみに「附《つけたり》」は、昔の本で付録的な内容があるときによく使われた副題に添えた言い方なのですが、読みが難しいと考えて奥付にフリガナを添えました。
「ガップリ!」を知った経緯や、選んでいただいた決め手は何だったのでしょうか。
基本的にはインターネットで探しました。ふだん利用している印刷の会社はいくつかあるので、そこも検討したのですが、今回はかなりページ数があることから、納品前サンプルが出るということが決め手となってガップリ!さんを選びました。見本ですけれども、それが1冊できてこないことには、その後、巻末に折り込む地図の設計ができなかったので、そういう意味でこのシステムは非常にありがたかったです。
今回の復刻本の仕様は、どのようなお考えで決められたのでしょうか。
やはり資料としての耐久性を意識したのと、100年くらいも昔の本の復刻版ということで、オフセット印刷とかがり綴じ、という仕様にこだわりました。ただそうすると、当初考えていた「ハードカバーに箔押し」などは予算的に難しく、製本タイプはくるみ表紙で妥協しました。用紙に関しては、元の本はけっこう薄く、めくりづらいのですが、今回の「淡クリームラフ書籍」という紙は嵩高なので、雰囲気もいいですし、めくりやすいです。紙がペラペラだと非常にめくりづらい上、印刷が裏移りして見づらくなるのも困るのですが、そうした意味でも非常によい選択だったと思います。また、見返しのもえぎの色もきれいでした。本文のほとんどがモノクロ印刷のため、さわやかな色味が非常に映えて、よいバランスになりました。
完成した本は、そちらの博物館で販売されているのでしょうか。
博物館では販売しておりません。ご承諾いただいたお取扱店に卸しているかたちですね。ですから、お求めになった方に直接アクセスする機会がないので、本に対する反応はわからないです。読んでみるとおもしろいのですが、売り上げの初速を狙う本ではないと思っていますから、そこは期待していません。ある程度、長丁場になって、別冊が出てからはじめて手に取られる方もいらっしゃるだろうと思っています。
博物館を、ただ運営するだけでなく、自らまとめた資料を皆さんにシェアしようという姿勢はすばらしいですね。
基本的には、図書館や博物館とはそういう役割も持った施設ではないでしょうか。当館としても、ただ資料をシェアすればいい、というだけではなくて、それをどのように見たらもっとおもしろいのか、ということに気づいていただくための出版物を出すのも、またひとつの仕事ととらえています。そうした活動もやっているからこそ運営する側も楽しいですし、皆さまにももっとよろこんでいただけるのではないかな、と思います。
資料の見方を提案していただけるのは、うれしいですね。より多くの方に興味を持ってもらえるのではないでしょうか。
はい。資料というものは一つ二つだけ見るのではなく、あるテーマや視点から分野横断的にいろいろなものを眺めてみるとはじめて見えてくることがよくあって、そこが醍醐味ともいえます。しかし、それを実際どうやるのか、具体的な例をお示ししないことにはなかなかそのおもしろさに気づいていただけないものでしょうから、それを本のカタチで出していくということは大事なんじゃないかなと思います。
お話ありがとうございました。古い資料でも、この本のように違う見方を提案してもらえると、
読んでみたいという気持ちになりますね。別冊にも期待しています!
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ガップリ!で印刷・製本した作品をご紹介「ガップリ!ギャラリー」
「ガップリ!ギャラリー」では、ガップリ!で印刷・製本したお客さまの製作事例をご紹介しています。
ギャラリーでは、作品の写真だけではなく、仕様や特徴、お客さまインタビューなども掲載しています。検索機能もあり、「製本タイプ」「サイズ」「用途」「オプション加工」「業種」から絞り込んで、素早く見たい製作事例が探せます。
「ガップリ!ではどんなことができるのか過去の作品を確認したい」「本づくりのヒントが欲しい」という方には参考になると思いますので、ぜひご覧ください。
かつ当時のレトロ感満載の広告も楽しめる復刻本
東京の阿佐ケ谷、高円寺というと、たくさんの人が行き交い、生活を営んでいるイメージがありますが、この本からは大正末期に人口が爆発的に増加した時期の町のようすをうかがい知ることができます。また、多数掲載されている当時の広告もレトロ感があり、それらをながめているだけでも十分に楽しめます。この復刻本を企画・製作した「図版研レトロ図版博物館」の方にお話をうかがいました。
中身を読んでみると大正末期の阿佐ヶ谷、高円寺あたりの状況が
立体的に描かれていて、これはおもしろいと思ったんです。
最初に、「図版研レトロ図版博物館」はどのような博物館なのか教えていただけますか。
こちらは明治から大正、昭和初期にかけて刊行された図版資料を集め、一般の方へのシェアを目的に、公開することをコンセプトとした私設図書館です。メインで扱っているのは、科学系や技術系、デザイン系、それから戦前のカタログや商品見本帳みたいなもので、コレクションとしては割と珍しいものですね。もともとは古道具屋がインターネット上に出品する商品の説明を書くために集めていた、その道具が現役だった当時のカタログや図解本などの出版物がそのベースになっているのですが、こうした収集資料は、抱えこんでいても常に使うわけではないのに、他の方が見たいと思ってもご覧になれる機会がなかなかありません。そもそも、どんな資料が存在しているかがわからなければ、見ようとするきっかけすらないわけです。それで、集めた資料を公開しようという方向に動きました。
ユニークな博物館ですね。どうして収蔵品を公開するだけでなく、復刻本まで作ろうと思われたのでしょうか。
昨年夏(2022年)に大正末期の東京、高円寺・阿佐ケ谷地域のタウンガイド本『杉並町誌附町名鑑』を収蔵しました。ところが、本を綴じていた鉄線が腐食していて、ページを開いているとボキッと折れてしまうんです。それで直さざるを得なくなって、解体修理を行いました。その際に全ページスキャニングしたのですが、中身を読んでみると非常におもしろい内容で、当時の商店建築写真などの図版も貴重な資料と思われました。そこで、著作権保護も切れていることから、影印版として復刻する企画が急きょ立ち上がったんです。しかも、この本は非常に現存数が少なく、こういうものが復刻版としてあると役に立つのではないかという思いもありました。
『杉並町誌附町名鑑』を収蔵した理由はどのようなことだったのでしょうか。
当館では「これはおもしろそうだ」という資料を選んで収蔵しています。そのなかで、東京郊外の大正時代の店舗物件の写真は特に少ないものですから、多分この本には載っているだろうと思われた『杉並町誌附町名鑑』を入れてみました。そうしたところ案の定載っていたのですが、中身を読んでみると大正末期の阿佐ケ谷、高円寺あたりの状況が立体的に描かれていて、これはおもしろいと思ったんです。ただ、本の中に出てくるたくさんの番地が、この町のどこにあるのか、どこに当たるのかというのがはっきりわかりません。これに細かい番地が振られた大きな地図をつけたら、わかってくるのではないかと、そうしたらもっとおもしろい本になるのではないかと思って、今回の本を企画しました。ですから、ガップリ!さんに製作をお願いしたものでは未完成で、それとは別に大きな地図を復刻しまして、本が納品されてから、その地図を巻末に折り込みで取り付けました。
「当時の地域の状態が立体的に描かれていておもしろいと思った」とのことですが、それはどのようなことでしょうか。
番地を地図にプロットしていくと、どの辺にどんな業種の店があったかというのがわかる。個人の番地が載っているので場所を見つけるのは簡単ですけど、住民の職業名も載っていますから、どの人はご自宅でなんの商売をしておられたかもわかります。しかも「本籍」として府県名も載っていますから、どこから移り住んで来ているかなどもわかりますよね。そうすると、今年(2023年)からちょうど100年前に起こった関東大震災をきっかけに急激に人が移り住んできて、農村だった所が住宅地化したわけなのですが、そのときに、どのような人たちによって町ができ上がっていったのかが見えてきて、おもしろいなと思ったんです。大正11年に中央線の電車駅の高円寺と阿佐ケ谷ができたのですが、それまでの人口増加は非常に緩やかです。明治から1000~2000人ぐらいしか増えていないのに、駅ができた翌年に関東大震災が起こり、そこからガーッと毎年倍々に増えていき、いかに急激に変わったかというのがわかります。
本に掲載されている当時のお店の広告も、とても興味深いですね。
そこが一番面白いですよね。それもあって、この本はある程度は受け入れられるかなと思いますが、旧字かなで文語文なので、そこまで売れるものではないなと。一般にはあまり読み慣れない方が多いでしょうから、ちょっとキビシいかな、とは思っています。ただ、文章よりもいろいろなデータが載っているページの方が多いですから、意味がつかみづらいところは少ないのではないでしょうか。これでも大正期のこの手の本としては、図版が多いほうですよ。広告が多いのでこんなに写真が載っていますが、広告がないと本当に図版は少ないんです。それで、この本を作っていく過程で、もっとビジュアル的なカタチでも見せたいな、という想いがありまして、いろいろ埋もれている資料が出てきたこともあり、別冊の企画が持ち上がったのです。万事行き当たりばったりの進め方ですが、追加でさらに資料を集めたり調査したりしつつ、現在も編集作業中です。
100年くらいも昔の本の復刻版いうことで、
オフセット印刷とかがり綴じ、という仕様にこだわりました。
元の本はご自身でスキャニングされたそうですね。スキャニングする時に、大変だったことはございますか。
本が古く紙が劣化していて、どうしても歪んでしまいます。それを見苦しくない程度に修正するのと、写真は、当時にしては割と写りがよいほうですが、やはり今の図版と比べれば不鮮明な部分もありますので、それをより見やすいよう加工するのにいくらか苦心しました。あとスキャナーの付属のアプリケーションが、一旦修正して確定してしまうとやり直しができず、失敗するともう一度撮らないといけないので手間がかかりました。それでも全300ページ以上ありますが、スキャニング・画質調整して仕上げるのに3日で済みましたから、それほど「大変」ということはなかったです。
今回、新たに本のタイトルを付けられたのには、どのような意味があるのでしょうか。
元のタイトルが『杉並町誌附町名鑑』と堅苦しく、それではとっつきがよろしくないのでなるべくやわらかくしたい、ということで『大正、阿佐ケ谷、高円寺。』とつけました。また、別に作って被せたカバーや帯は、なるべく先入観なくお手に取っていただくきっかけにしたい、ということでキャッチーなデザインを目指したつもりです。ちなみに「附《つけたり》」は、昔の本で付録的な内容があるときによく使われた副題に添えた言い方なのですが、読みが難しいと考えて奥付にフリガナを添えました。
「ガップリ!」を知った経緯や、選んでいただいた決め手は何だったのでしょうか。
基本的にはインターネットで探しました。ふだん利用している印刷の会社はいくつかあるので、そこも検討したのですが、今回はかなりページ数があることから、納品前サンプルが出るということが決め手となってガップリ!さんを選びました。見本ですけれども、それが1冊できてこないことには、その後、巻末に折り込む地図の設計ができなかったので、そういう意味でこのシステムは非常にありがたかったです。
今回の復刻本の仕様は、どのようなお考えで決められたのでしょうか。
やはり資料としての耐久性を意識したのと、100年くらいも昔の本の復刻版ということで、オフセット印刷とかがり綴じ、という仕様にこだわりました。ただそうすると、当初考えていた「ハードカバーに箔押し」などは予算的に難しく、製本タイプはくるみ表紙で妥協しました。用紙に関しては、元の本はけっこう薄く、めくりづらいのですが、今回の「淡クリームラフ書籍」という紙は嵩高なので、雰囲気もいいですし、めくりやすいです。紙がペラペラだと非常にめくりづらい上、印刷が裏移りして見づらくなるのも困るのですが、そうした意味でも非常によい選択だったと思います。また、見返しのもえぎの色もきれいでした。本文のほとんどがモノクロ印刷のため、さわやかな色味が非常に映えて、よいバランスになりました。
完成した本は、そちらの博物館で販売されているのでしょうか。
博物館では販売しておりません。ご承諾いただいたお取扱店に卸しているかたちですね。ですから、お求めになった方に直接アクセスする機会がないので、本に対する反応はわからないです。読んでみるとおもしろいのですが、売り上げの初速を狙う本ではないと思っていますから、そこは期待していません。ある程度、長丁場になって、別冊が出てからはじめて手に取られる方もいらっしゃるだろうと思っています。
博物館を、ただ運営するだけでなく、自らまとめた資料を皆さんにシェアしようという姿勢はすばらしいですね。
基本的には、図書館や博物館とはそういう役割も持った施設ではないでしょうか。当館としても、ただ資料をシェアすればいい、というだけではなくて、それをどのように見たらもっとおもしろいのか、ということに気づいていただくための出版物を出すのも、またひとつの仕事ととらえています。そうした活動もやっているからこそ運営する側も楽しいですし、皆さまにももっとよろこんでいただけるのではないかな、と思います。
資料の見方を提案していただけるのは、うれしいですね。より多くの方に興味を持ってもらえるのではないでしょうか。
はい。資料というものは一つ二つだけ見るのではなく、あるテーマや視点から分野横断的にいろいろなものを眺めてみるとはじめて見えてくることがよくあって、そこが醍醐味ともいえます。しかし、それを実際どうやるのか、具体的な例をお示ししないことにはなかなかそのおもしろさに気づいていただけないものでしょうから、それを本のカタチで出していくということは大事なんじゃないかなと思います。
お話ありがとうございました。古い資料でも、この本のように違う見方を提案してもらえると、
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「ガップリ!ギャラリー」では、ガップリ!で印刷・製本したお客さまの製作事例をご紹介しています。
ギャラリーでは、作品の写真だけではなく、仕様や特徴、お客さまインタビューなども掲載しています。検索機能もあり、「製本タイプ」「サイズ」「用途」「オプション加工」「業種」から絞り込んで、素早く見たい製作事例が探せます。
「ガップリ!ではどんなことができるのか過去の作品を確認したい」「本づくりのヒントが欲しい」という方には参考になると思いますので、ぜひご覧ください。