インタビュー
『田中正弘作品集』
/ 亡き友の歩みを一冊の「形」に。 /
鉄の造形が紙の上で蘇る、
軌跡の作品集。
1976年から半世紀近くにわたり、鉄を中心とした重厚な造形の世界を追求し続けてきた立体造形作家・田中正弘さん。2025年に惜しまれつつこの世を去った彼の創作の軌跡を後世に残すため、長年の友人でありグラフィックアーティストの橋本伸也さんが、ご家族の依頼を受け今回の作品集を制作しました。膨大なアナログ写真のスキャンや、鉄の質感を再現するための試行錯誤など、亡き友とご家族の想いに寄り添いながら一冊の本へと結実させた制作のエピソードをうかがいました。
40年来の友人の遺志を継ぐための作品集制作。
まずは、今回制作された田中正弘さんの作品集について、田中さんがどのような方だったのかを教えていただけますか?
▲立体造形作家の田中正弘さん
田中さんは、東京教育大学(現・筑波大学)を卒業後、個人で創作活動をスタートさせた立体造形作家です。
1976年から、ほぼ毎年個展やグループ展を開催し、精力的に作品を発表してきました。
数々の美術展でも受賞するなど、確かな実績を持つ方でしたね。
残念ながら2025年1月に亡くなられましたが、その前からご家族より「作品を本という形に残したい」というお話をいただいており、その想いを受けて今回の作品集制作に至りました。
橋本さんは、田中さんと以前からのお知り合いだったのですか?
▲本作品集の制作に携わった橋本伸也さん
1984年のグループ展を皮切りに、30年ほど一緒に展示会を開いてきた旧知の仲です。
一緒にお酒を飲むようなプライベートな交流もありましたし、彼の個展のDM(案内状)などのデザインも私が担当していました。本業ではありませんが、以前からDTPや印刷関係の仕事を手がけていた経緯もあり、ご家族から制作のご依頼をいただきました。
この作品集は、どのような内容になっているのでしょうか?
すべての作品を網羅しているわけではありませんが、年代を追って田中さんの創作を辿れる構成にしています。特定のテーマを設けるというより、これまでどのような表現を積み重ねてきたのか、その「変遷」を形に残したかったんです。
当初は作品をランダムに配置する案もありましたが、最終的には田中さんが生前に整理されていたファイルをもとに、年代順で構成しました。その方が表現の移り変わりが自然に伝わると考えたからです。
シリーズが切り替わる際に唐突な印象を与えないよう、パソコン上で何度も流れを確認しながら全体のリズムを整えました。
鉄の「重厚さ」と「スケール感」を紙の上で再現する。
立体作品を平面の「本」に落とし込む際に、苦労された点はありますか?
田中さんは非常に大きな鉄の作品を多く制作されていましたが、その「スケール感」を紙の上でどう表現するかが最大の課題でした。
そこで、ディテールを強調する大胆なトリミングや、左右のページに作品を広げる「見開き」のレイアウトを採用するなど、誌面から溢れ出すような迫力を演出しました。
また、鉄の質感の再現にも苦労しました。モノクロ写真が多かったため過度な加工は避け、コントラストを丁寧に調整しながら、鉄特有の重厚さやザラリとした手触りが伝わるよう意識しました。
▲田中さんの制作道具が多数並んだ、実際の作業場の写真
写真も相当な数だったのではないですか。そこから掲載する作品を選ぶのも大変だったのではないでしょうか?
田中さんの初期の作品はデータではなく「紙焼き写真」だったことから、それらを一点ずつスキャンするだけで2〜3か月ほどかかりました。平日は仕事があるため、土日はほぼこの作業に費やしていましたね。しかも古い写真のため、サイズが小さかったり状態が悪かったりして、掲載を断念せざるを得ないものもあり、想像以上に大変な作業でした。
ただ、ご家族はそうしたものも含めて、田中さんの作品をある程度のボリュームで残したいと考えておられたのだと思います。私自身も、その想いを感じながら制作にあたりました。
180度パタンと開く「糸かがり綴じ」へのこだわり。
今回「ガップリ!」を選んでいただいた決め手は何でしたか?
いろいろ調べた中で、ハードカバーの上製本ができ、かつ「糸かがり綴じ」に対応している点が大きかったですね。
参考になる制作事例があったことも、「こういう風にできるならお願いしたい」と思える安心材料になりました。
私自身、最初からハードカバーにこだわっていたわけではありませんが、「見開きでダイナミックに作品を見せたい」という思いが強く、180度パタンと開く糸かがり綴じは必須の条件でした。
▲横型の写真も見開きで綺麗に大きく表現できる糸かがり綴じ
印刷には高精細なデジタル印刷機を使用しましたが、仕上がりはいかがでしたか?
非常に良い仕上がりだと思いました。
掲載写真はモノクロが多いのですが、ご家族の方も、昼光色の自然な光の中で見ると「とても綺麗に見える」と喜んでおられました。私自身も仕上がりの美しさを実感しています。
見本として送っていただいたものを周囲の方々にもお見せしたのですが、やはり皆さん「綺麗だね」とおっしゃっていました。
▲様々な明暗の差がある黒色の、深みを引き出す超高精細デジタル印刷
用紙にマットコート紙を選ばれた理由を教えてください。
紙については、最初から「艶を抑えた質感にしたい」と考えていました。そこで選んだのがマットコート紙です。
田中さんの作品は鉄を素材としたものが多いので、光沢のある紙よりも、マットな質感の方が鉄特有のザラザラとした手触りや重厚感をうまく表現できると思ったんです。用紙の厚みについては検討しましたが、質感に関しては迷わずマットコート紙を選びました。
作品集のサイズはどのようにして決まったのでしょうか?
サイズはご家族からのリクエストでA4に決まりました。最初は真四角などの見本も持っていきましたが、最終的にはこの大きさがベストだという結論に至りました。
田中さんの作品にはかなり大きなものも多かったので、A4サイズで見開きにすることで、そのスケール感を大胆に表現できたのではないかと思っています。
家族の想いが実り、次世代へつながる一冊に。
実際に作品集が完成したときの感想はいかがでしたか?
想像していた以上に良い仕上がりになったと感じています。最初はソフトカバーで制作したのですが、ご家族から「ハードカバーにしたい」という強いご希望をいただき、改めてハードカバーで作り直しました。
完成してみると評判も非常によく、結果的に増刷にもつながりました。
ご家族からも「綺麗だね」という言葉をいただき、ようやく私もホッとしました。
完成した作品集は、どのような場所に届けられているのですか?
埼玉県立近代美術館の学芸員の方からアドバイスをいただき、各地の美術館や図書館、画廊などに寄贈というかたちでお贈りしています。田中さんの出身地である新潟にもお届けするとうかがっています。
▲故郷のギャラリー「新潟絵屋」で開催された、2011年の個展会場にて(左)、新潟市の夕日モニュメント(右)
この本を手にする方に、どのようなことを感じてほしいと思われますか?
見る人の想像にお任せしますが、「田中さんは、こんな人だったんだな」ということが伝わればいいなと思っています。
田中さんは大雑把で面白く、お酒が好きな人でした。高校で美術教師を務めていたこともあり、とても面倒見がよくて、個展を開けば教え子たちがたくさん駆けつけてくれました。本の最後には、ご本人の写真も掲載しています。
重厚な鉄の作品の奥にある、彼の温かい人柄まで感じてもらえたらうれしいです。
▲2018年に埼玉県立近代美術館で行われた、最後のグループ展搬入時の様子
最後に「ガップリ!」を利用された感想をお聞かせください。
100ページのデータ作りには苦労しましたが、電話で直接やり取りができたのは本当に助かりましたね。
メールだけでは伝わりにくいニュアンスも、言葉で会話することでスムーズに解決できました。
はじめてのハードカバー制作でしたが、非常に良い経験になりました。
膨大なアナログ写真と向き合い、一枚一枚スキャンしていく作業は、
田中さんとの思い出をあらためて辿る大切な時間だったのではないでしょうか。
完成した作品集は、ご家族にとっても、かけがえのない「贈り物」になったことと思います。
貴重なお話をありがとうございました。
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- 株式会社グラフィッコ 様
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ガップリ!で印刷・製本した作品をご紹介「ガップリ!ギャラリー」
「ガップリ!ギャラリー」では、ガップリ!で印刷・製本したお客さまの製作事例をご紹介しています。
ギャラリーでは、作品の写真だけではなく、仕様や特徴、お客さまインタビューなども掲載しています。検索機能もあり、「製本タイプ」「サイズ」「用途」「オプション加工」「業種」から絞り込んで、素早く見たい製作事例が探せます。
「ガップリ!ではどんなことができるのか過去の作品を確認したい」「本づくりのヒントが欲しい」という方には参考になると思いますので、ぜひご覧ください。
鉄の造形が紙の上で蘇る、
軌跡の作品集。
1976年から半世紀近くにわたり、鉄を中心とした重厚な造形の世界を追求し続けてきた立体造形作家・田中正弘さん。2025年に惜しまれつつこの世を去った彼の創作の軌跡を後世に残すため、長年の友人でありグラフィックアーティストの橋本伸也さんが、ご家族の依頼を受け今回の作品集を制作しました。膨大なアナログ写真のスキャンや、鉄の質感を再現するための試行錯誤など、亡き友とご家族の想いに寄り添いながら一冊の本へと結実させた制作のエピソードをうかがいました。
40年来の友人の遺志を継ぐための作品集制作。
まずは、今回制作された田中正弘さんの作品集について、田中さんがどのような方だったのかを教えていただけますか?
▲立体造形作家の田中正弘さん
田中さんは、東京教育大学(現・筑波大学)を卒業後、個人で創作活動をスタートさせた立体造形作家です。
1976年から、ほぼ毎年個展やグループ展を開催し、精力的に作品を発表してきました。
数々の美術展でも受賞するなど、確かな実績を持つ方でしたね。
残念ながら2025年1月に亡くなられましたが、その前からご家族より「作品を本という形に残したい」というお話をいただいており、その想いを受けて今回の作品集制作に至りました。
橋本さんは、田中さんと以前からのお知り合いだったのですか?
▲本作品集の制作に携わった橋本伸也さん
1984年のグループ展を皮切りに、30年ほど一緒に展示会を開いてきた旧知の仲です。
一緒にお酒を飲むようなプライベートな交流もありましたし、彼の個展のDM(案内状)などのデザインも私が担当していました。本業ではありませんが、以前からDTPや印刷関係の仕事を手がけていた経緯もあり、ご家族から制作のご依頼をいただきました。
この作品集は、どのような内容になっているのでしょうか?
すべての作品を網羅しているわけではありませんが、年代を追って田中さんの創作を辿れる構成にしています。特定のテーマを設けるというより、これまでどのような表現を積み重ねてきたのか、その「変遷」を形に残したかったんです。
当初は作品をランダムに配置する案もありましたが、最終的には田中さんが生前に整理されていたファイルをもとに、年代順で構成しました。その方が表現の移り変わりが自然に伝わると考えたからです。
シリーズが切り替わる際に唐突な印象を与えないよう、パソコン上で何度も流れを確認しながら全体のリズムを整えました。
鉄の「重厚さ」と「スケール感」を紙の上で再現する。
立体作品を平面の「本」に落とし込む際に、苦労された点はありますか?
田中さんは非常に大きな鉄の作品を多く制作されていましたが、その「スケール感」を紙の上でどう表現するかが最大の課題でした。
そこで、ディテールを強調する大胆なトリミングや、左右のページに作品を広げる「見開き」のレイアウトを採用するなど、誌面から溢れ出すような迫力を演出しました。
また、鉄の質感の再現にも苦労しました。モノクロ写真が多かったため過度な加工は避け、コントラストを丁寧に調整しながら、鉄特有の重厚さやザラリとした手触りが伝わるよう意識しました。
▲田中さんの制作道具が多数並んだ、実際の作業場の写真
写真も相当な数だったのではないですか。そこから掲載する作品を選ぶのも大変だったのではないでしょうか?
田中さんの初期の作品はデータではなく「紙焼き写真」だったことから、それらを一点ずつスキャンするだけで2〜3か月ほどかかりました。平日は仕事があるため、土日はほぼこの作業に費やしていましたね。しかも古い写真のため、サイズが小さかったり状態が悪かったりして、掲載を断念せざるを得ないものもあり、想像以上に大変な作業でした。
ただ、ご家族はそうしたものも含めて、田中さんの作品をある程度のボリュームで残したいと考えておられたのだと思います。私自身も、その想いを感じながら制作にあたりました。
180度パタンと開く「糸かがり綴じ」へのこだわり。
今回「ガップリ!」を選んでいただいた決め手は何でしたか?
いろいろ調べた中で、ハードカバーの上製本ができ、かつ「糸かがり綴じ」に対応している点が大きかったですね。
参考になる制作事例があったことも、「こういう風にできるならお願いしたい」と思える安心材料になりました。
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▲横型の写真も見開きで綺麗に大きく表現できる糸かがり綴じ
印刷には高精細なデジタル印刷機を使用しましたが、仕上がりはいかがでしたか?
非常に良い仕上がりだと思いました。
掲載写真はモノクロが多いのですが、ご家族の方も、昼光色の自然な光の中で見ると「とても綺麗に見える」と喜んでおられました。私自身も仕上がりの美しさを実感しています。
見本として送っていただいたものを周囲の方々にもお見せしたのですが、やはり皆さん「綺麗だね」とおっしゃっていました。
▲様々な明暗の差がある黒色の、深みを引き出す超高精細デジタル印刷
用紙にマットコート紙を選ばれた理由を教えてください。
紙については、最初から「艶を抑えた質感にしたい」と考えていました。そこで選んだのがマットコート紙です。
田中さんの作品は鉄を素材としたものが多いので、光沢のある紙よりも、マットな質感の方が鉄特有のザラザラとした手触りや重厚感をうまく表現できると思ったんです。用紙の厚みについては検討しましたが、質感に関しては迷わずマットコート紙を選びました。
作品集のサイズはどのようにして決まったのでしょうか?
サイズはご家族からのリクエストでA4に決まりました。最初は真四角などの見本も持っていきましたが、最終的にはこの大きさがベストだという結論に至りました。
田中さんの作品にはかなり大きなものも多かったので、A4サイズで見開きにすることで、そのスケール感を大胆に表現できたのではないかと思っています。
家族の想いが実り、次世代へつながる一冊に。
実際に作品集が完成したときの感想はいかがでしたか?
想像していた以上に良い仕上がりになったと感じています。最初はソフトカバーで制作したのですが、ご家族から「ハードカバーにしたい」という強いご希望をいただき、改めてハードカバーで作り直しました。
完成してみると評判も非常によく、結果的に増刷にもつながりました。
ご家族からも「綺麗だね」という言葉をいただき、ようやく私もホッとしました。
完成した作品集は、どのような場所に届けられているのですか?
埼玉県立近代美術館の学芸員の方からアドバイスをいただき、各地の美術館や図書館、画廊などに寄贈というかたちでお贈りしています。田中さんの出身地である新潟にもお届けするとうかがっています。
▲故郷のギャラリー「新潟絵屋」で開催された、2011年の個展会場にて(左)、新潟市の夕日モニュメント(右)
この本を手にする方に、どのようなことを感じてほしいと思われますか?
見る人の想像にお任せしますが、「田中さんは、こんな人だったんだな」ということが伝わればいいなと思っています。
田中さんは大雑把で面白く、お酒が好きな人でした。高校で美術教師を務めていたこともあり、とても面倒見がよくて、個展を開けば教え子たちがたくさん駆けつけてくれました。本の最後には、ご本人の写真も掲載しています。
重厚な鉄の作品の奥にある、彼の温かい人柄まで感じてもらえたらうれしいです。
▲2018年に埼玉県立近代美術館で行われた、最後のグループ展搬入時の様子
最後に「ガップリ!」を利用された感想をお聞かせください。
100ページのデータ作りには苦労しましたが、電話で直接やり取りができたのは本当に助かりましたね。
メールだけでは伝わりにくいニュアンスも、言葉で会話することでスムーズに解決できました。
はじめてのハードカバー制作でしたが、非常に良い経験になりました。
膨大なアナログ写真と向き合い、一枚一枚スキャンしていく作業は、
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完成した作品集は、ご家族にとっても、かけがえのない「贈り物」になったことと思います。
貴重なお話をありがとうございました。
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