オリジナル絵本 インタビュー
『ぼうしの中には』

/ 70歳を過ぎて挑んだ本格的な絵本づくり。 /
母の情熱と、娘のサポートが実らせた一冊。
子育てを終えた51歳で脚本を学び始め、70歳を過ぎてから絵本づくりに挑んだ市田峰子さん。病気を経験したことをきっかけに、「自分の生きてきた証を形に残したい」と、30年前に聞いて心に残っていたある女の子のお話を絵本にしようと決意します。制作ディレクションや手続きを全面的にサポートした娘の平川菜穂さんとともに、絵本づくりの試行錯誤や、この本に込めた想いについてお話をうかがいました。
インタビューにお答えいただいた方(※本文中は敬称略)
- 市田さん(母)
- 平川さん(娘)
「これからは何があってもおかしくない。自分がどんな人間だったのか、
何も残らないのはもったいない」と強く感じるようになったんです。
市田さんがお話や絵本を作り始めたきっかけを教えてください。
▲絵本サークルでの活動の様子
市田:私は小さい頃、体が弱く、学校を休んでは本を読んだり、チラシの端に絵を描いたりして過ごしたことが、お話や絵本を作るようになった原点だと思います。
子育てが一段落した51歳のとき、「これからは自分のために生きよう」と思い立ち、文章を書くのが好きだったので夜間に大阪の「心斎橋大学」へ通って脚本を学び始めました。賞に応募して入選することもあり喜んでいたのですが、仕事やボランティア活動と並行していくうちに、体力的に続けていくことが難しくなり、途中で辞めざるを得なくなったんです。
「最後までできなかった」という思いが心残りとしてある中、70歳を過ぎてから、好きだった絵を活かして「絵本だったら描けるかもしれない」と地域の絵本サークルに入りました。そこで手づくりのハードカバー製本を習い、自分の絵が立派な本になった感動が、今の絵本づくりにつながっています。
今回の作品『ぼうしの中には』は、どのようにして生まれたのですか?
市田:サークルで最初に作った絵本以降、なかなか次のアイデアが浮かばず悩んでいました。毎年地域のフェアに出品していたものの、納得のいく作品が作れず、いつも最初の絵本ばかりを出していたんです。「これではいけない。ちゃんとしたものを作ろう」と決意し、3年ほど前に制作したのがこの作品です。あるとき、30年前に聞いたお話がふっと頭に浮かび、「これだ」と感じて描き始めました。
▲今回の作品の元になった手描きの原画
物語のベースとなった、30年前のお話について詳しくお聞かせください。
市田:その頃、地域の子どもたちのための電話相談でボランティアをしていて、研修の合間に、ある塾の先生から聞いた一人の女の子のお話が忘れられなかったんです。その子は誰にも言えない秘密を抱えていたようで、授業中もずっと帽子をかぶっていました。理由はわからないものの、頭に小さなハゲができていたそうです。その塾の先生は、その子のことをずっと気にかけていて、つらい思いをさせてしまったのではないかと心を痛めていらっしゃいました。
絵本を作ろうと思ったとき、その頃の記憶が鮮明によみがえり、自分でも驚くほど一気に物語が完成しました。会ったこともない子ですが、「物語の中だけでも、最後は幸せな結末にしてあげたい」という想いで、この作品を作り上げました。
完成したお話を、どうして現在のような絵本に仕上げようと思われたのですか?
市田:最初は色鉛筆を使い、小さなサイズの絵本を手づくりしてフェアにも出品しました。その後、この作品をどう展開しようかと考えていたときにパソコンサークルを知り、デジタルで描くことに挑戦したんです。少しずつ操作を覚えてなんとかパソコンで絵を描き上げることはできたのですが、本として仕上げるには一冊が限界で、自分一人ではこれ以上きちんとした本にできないと悩んでいました。そんな折に病気で入退院を繰り返すようになり、「これからは何があってもおかしくない。自分がどんな人間だったのか、何も残らないのはもったいない」と強く感じるようになったんです。そこで、この絵本をきちんとした形として残し、子どもや孫、お友だちに手渡したいと娘に頼み、今回の制作が決まりました。
▲手描きの絵をもとにパソコンで制作した一冊
娘さんから見て、お母さまの創作活動や作品にはどのような印象をお持ちですか?
平川:身内として関係が近すぎるため、客観的に読めない部分があるんです。悪い意味ではなく、感情移入しすぎないよう、あえて少し距離を置いて見るようにしています。ただ、絵や脚本、パソコンと、へこたれずに何かを生み出し続けるバイタリティと、それを堂々と発表できるところは、すごいなと感じています。作品に魂を込めて創り上げることが、純粋に好きなんでしょうね。本当はもっと褒めてあげればいいのでしょうけれど、母と娘だとなかなか素直になれないんですよね(笑)。
この絵本のテーマや、読者に一番伝えたいメッセージを教えてください。
市田:先ほどもお話しした通り、私自身、幼い頃は体が弱く学校に馴染めない時期がありました。だからこそ、同じように悩んだり周囲に打ち解けられずにいる子どもたちの背中をそっと押し、一歩踏み出す勇気を届けたいと考えました。また、これは子どもだけでなく、大人や高齢者にも共通するメッセージです。歳を重ねて体調を崩すと心も沈みがちになりますが、少しの勇気で新しい道が開けることがあります。実は現在、新作を制作しています。そこでは学校に馴染めない子どもと、「誰かの役に立ちたい」と願うおばあちゃんが出会います。世代を超えてつながり、お互いが希望を見出していくような「化学反応」が生まれる作品になればいいなと思いながら描いています。
私は雑誌の編集経験はありましたが、絵本のデザインはわからないので、
クラウドソーシングサイトでデザイナーさんを募集したんです。
今回の絵本を「本」の形にするにあたり、どのような方法をとられたのですか?
平川:母の目的が流通ではなく「孫や知り合いにお分けしたい」ということだったので、必要な部数だけ自費出版で制作しようと提案しました。私は雑誌の編集経験はありましたが、絵本のデザインはわからないので、クラウドソーシングサイトでデザイナーさんを募集したんです。
「母の原画を大切にしてくれて、プロならではの視点で補足を加えていただける方」を探していたところ、陽葵ちまさんに出会い、そこから三人四脚での絵本づくりが始まりました。
プロの編集・デザインの方を入れたことで、絵本はどのようになりましたか?
市田:最初は必要ないと思っていたのですが、陽葵さんが細部まで直してくださったおかげで、ちゃんとした形になりました。一番こだわった口に出せない主人公の顔の表情や、机の端といった目立たない部分まできれいに修正していただいたんです。表紙のタイトル文字に帽子をかぶせたデザインも作っていただき、そのセンスはすごいなと思いました。また、おばあちゃんと女の子が夕焼けを見ているシーンと対比させて、最後のページに同じ構図で晴れ渡った絵を入れた方がいいと提案していただいたときは、本当に感動しました。
平川:母の原画を生かしつつ、本人も気づかないほど丁寧に手を入れていただき、全体のクオリティを底上げしてくださいました。レイアウトも、当初の「左ページに文章、右ページに絵」という形から、陽葵さんに相談して文字を絵の中に入れる見開き構成に変更したことで、物語の流れが一気に良くなりました。
▲絵の中に文字を配置し、物語の流れをスムーズに。
言葉の表現についても、いろいろとアドバイスがあったそうですね。
市田:男の子のお父さんの「ケンカはだれにもまけない」という言葉は、今の時代には難しいと指摘されました。ただ、変えてしまうとインパクトが薄れますし、不器用な親の愛情を伝えるために必要だと思い、あえて残しました。また、「ハゲ」という言葉も、人を傷つけるからと変更を勧められました。ですが、別の言葉に置き換えると子どもにはわかりにくくなりますし、自分の表現したいニュアンスとも違ってしまうので、そのまま残しました。考え抜いたお話なので後悔はしたくなくて、こうした大切なこだわりは娘を介して伝えてもらいました。ただ、私が遠慮して少し経ってから言うものだから、「最初に言って!」と娘には怒られてしまいました(笑)。
制作プロセスのなかで、とくに苦労された点はありましたか?
市田:自分の想いをどこまで伝えて、どこまで抑えるべきかの加減に悩みました。自分に自信がないというか、一度は納得して完璧だと思っても、次の日になるとまた違うところが気になってしまい、修正がキリなく続いて大変でした。
平川:明確な納期がない分、目の大きさや髪の長さなど、母のこだわりによる修正がエンドレスに続いたことですね。陽葵さんに「良いと思います」と言っていただけると母も安心するのですが、私だと「あんたは素人だから」と聞いてくれないんです(笑)。本人の想いに寄り添いたい気持ちはありつつも、行ったり戻ったりを繰り返していたので、想いのこもった作品を作るのはとても大変だなと思いました。
私の意見をいろいろと聞いて大変だったろうと思いますが、
娘にも本当に感謝しています。
絵本を作るにあたり、ガップリ!の絵本を選んだ理由を教えてください。
▲完成したハードカバーの絵本
平川:母の中で「絵本=ハードカバー」というイメージがあったので、対応している会社をネットで探しました。
その中で、はじめて絵本を作る立場から見て一番わかりやすかったのが御社でした。事前に用紙見本や絵本サンプルを送っていただき、手元でリアルに確認できたことも大きかったです。表紙や見返しなどの紙の違いを確認でき、仮製本の段階で用紙を変更するときにもすごく助かりました。
仕様については、母が以前取っていた見積もりデータを参考に、B5サイズ・32ページに決めました。
完成した絵本を手にしたときは、どのようなお気持ちでしたか?
市田:それはもう感動でした。途中でいただいた仮製本を見て用紙の変更をお願いしたのですが、おかげで納得のいく絵本づくりができました。表紙の夏らしい水色もきれいに表現されていて嬉しかったです。私の意見をいろいろと聞いて大変だったろうと思いますが、娘にも本当に感謝しています。その気持ちを忘れたらいけない気がして、今は毎晩寝る前にこの絵本を読んでから眠っているんですよ(笑)。
平川:本当にすごいと思いました。「ちゃんと絵本になったんだ!」って。まずは一つホッとしたという気持ちが大きかったです。自分自身にも、母にも、陽葵さんにも「お疲れ様」と言いたいですね。母の想いを十分に形にすることができたのだろうか。最後までそんな自問を繰り返していましたが、母がこれだけ喜んでくれているなら良かったです。それに、今回の絵本づくりを通して、母のバイタリティだけでなく、素人なりに一文字一文字にまで強い想いを込めているのだと改めて気づかされました。その姿に「作家先生じゃん!」と思いましたね。家族でささやかなお祝いパーティーを開いたとき、母に「先生、サインいただいていいですか」と頼んだら、嬉しそうに書いていましたよ(笑)。
▲絵本の見返しに書かれた市田さんのサイン
周囲に絵本を配られた際の反響はいかがでしたか?
市田:娘や孫、友人たちもすごく喜んでくれました。以前のフェアで『ぼうしの中には』を読まれた方より、主人公と同じ悩みを持つ孫に読んで聞かせたいと仰った方がおられたのですが、当時は一冊しかなくてお貸しできなかったんです。今回お渡しできてとても感激してくださり、同じ悩みを持つ方の心に響いたことがとても嬉しかったです。他にも、病院関連の冊子を作っていらっしゃる方がいて、エッセイ執筆を頼まれたりもしました。もう手元に半分ほどしか残っていないので、これ以上減ったら配るのが惜しくなりそうです(笑)。
▲出版を記念した、ご家族でのお食事会
最後に、ガップリ!で絵本を作ってみた感想をお願いします。
平川:正直なところ、ネット印刷は品質よりもスピードや納期を重視するものというイメージがあって、そこまで期待していなかったんです。だからこそ、仕上がりを見たときは良い意味で驚きました。思っていた以上に色がきれいに出ていて、再現性がとても高いなと。もし今後、同じように絵本を作りたいという人がいたら、ぜひ紹介したいですね。
陽葵ちまさんの個人サイトとSNS
- 個人サイト:https://www.pyocoryon.com/
- Instagram:https://www.instagram.com/pyocoryon/
70歳を過ぎても衰えることのない市田さんの真っ直ぐな創作意欲と、
ときには意見をぶつけ合いながらも制作を支え続けた
平川さんとの親娘の絆に感動しました。お話をありがとうございました。
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- ずんずん
- りみさん様
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- 株式会社水野製菓様
- ウミガメのふるさと四日市みんなのふるさと四日市
- 下田菜生様
- 蟲の新世界-アリとのぞく、みんなの未来
- NPO法人バイオミメティクス推進協議会様
- 心で見る塗り絵
- テルヤアスマ様
- プリンセスすみれプリンセスさらとくろいまじょ
- 作/かたやまゆかり様
絵/うえはらよしこ様
- ヨーホーじいさん
- しおふり様
- やきもち地蔵
- 山の街まちづくり協議会様
- メイヤーレモンのきのしたで
- ぎやごんRyuji様
- なにがあっても
- 作/倉本ななこ様
画/谷口マリエ様
- おーい、仲間に入れてよ。
- 有限会社オフィスユキ 様
- あこちゃんとひみつのごはん
- 徳永陶磁器株式会社 様
- おじいさんとまほうのたね
- 三瀬読み語りの会ホンホン(佐賀市) 大江登美子 様
- NOOK 上巻
- tricolor(トリコロール) 様
- くじらの夫婦
- 小海町役場 様
- うずまきぐるぐる
- catable(きゃっとえいぶる) 様
- むぎ
- MUGI BOOK PROJECT 様
- こねずみたちのサプライズ/粋な3人組
- 女子美術大学 保育美術研究会 代表 細矢智寛 様
- あこがれ世界の音楽室1 海底より
- 作/橘山まさお様
絵/sea-no様
- おもいはめぐる
- sakko様
- さると木
- 文/なかいずみ とうま様
絵/ハセガワ直子様
- うちのママってヘンなんだ
- あずきみるく様
- おはなしのもり
- 任意団体「デフシル-DEAF SHIRU-」様
- ひとつの森
- ハシケン様
- TASCぎふコラボ展vol.8 虹色の木の下で
- 作/丹賀澤賢様
絵/naomi様・金田典子様
- とのととどまる。~殿 ニューヨークへ行く~
- 作/とどまる様
絵/あきばたまみ様・かんのあき様
- かぞくです
- 作/鈴木まど佳様・弓﨑也美様・Jennifer Martin様
絵/AKITO HOSHINO様
- にゃーご こうえんへいく
- 株式会社blue dreamプランニング ずむずむ®絵本
真下直子様
- My Friends
- 作/くりくり様 絵/ふっかー様
- MONSTER'S STORY BOOK
- TOMASON様
- 平田五郎
- りふdeおは梨様
- うまれもった ひかり / アゴのはずれた くるみわりにんぎょう
- えのもと かずき様
- のりまき のりちゃん
- 絵本とおひるね舎 甲斐 絵里(エリック ウーリ)様
- 魔女のレストラン
- 株式会社グラフィッコ様
- WHAT'S THIS?
- SAKURA様
- たのしみながら少しづつ
- 山下 泰様
- ここに生まれてきたんだよ
- 伊敷トゥートリサ様
- やぎちゃんと秘密の線香
- 八木 宏幸様
- Fantasy
- Yuri Alfrancaix様
- ちびおるめのひと駅の大冒険
- 社会芸術ラボORINAS 佐原香織様
- EVER GREEN / だいじょうぶ
- Fleurbrahman Art様
- てふ ひらり はたり
- Akiko.B.Mimura様/スゲノマロ様
- いちにち
- 横瀬芽実依様
- 育てるタオル 育てる暮らし
- 株式会社 英瑞様
- イトウってなーんだ?
- 猿払イトウの会様
- てんぷら!声を聞かせて
- 社会医療法人同仁会 耳原総合病院様
- バリアフリー戦隊ダンサナクセイバー ~心のバリアフリー編~
- NPO法人自立生活センターSTEPえどがわ様
- いったい どうなっているんだぃ?
- 群馬医療福祉大学 村山明彦様 山口智晴様
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- 品川女子学院様
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- あてま森と水辺の教室ポポラ様
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母の情熱と、娘のサポートが実らせた一冊。
子育てを終えた51歳で脚本を学び始め、70歳を過ぎてから絵本づくりに挑んだ市田峰子さん。病気を経験したことをきっかけに、「自分の生きてきた証を形に残したい」と、30年前に聞いて心に残っていたある女の子のお話を絵本にしようと決意します。制作ディレクションや手続きを全面的にサポートした娘の平川菜穂さんとともに、絵本づくりの試行錯誤や、この本に込めた想いについてお話をうかがいました。
インタビューにお答えいただいた方(※本文中は敬称略)
- 市田さん(母)
- 平川さん(娘)
「これからは何があってもおかしくない。自分がどんな人間だったのか、
何も残らないのはもったいない」と強く感じるようになったんです。
市田さんがお話や絵本を作り始めたきっかけを教えてください。
▲絵本サークルでの活動の様子
市田:私は小さい頃、体が弱く、学校を休んでは本を読んだり、チラシの端に絵を描いたりして過ごしたことが、お話や絵本を作るようになった原点だと思います。
子育てが一段落した51歳のとき、「これからは自分のために生きよう」と思い立ち、文章を書くのが好きだったので夜間に大阪の「心斎橋大学」へ通って脚本を学び始めました。賞に応募して入選することもあり喜んでいたのですが、仕事やボランティア活動と並行していくうちに、体力的に続けていくことが難しくなり、途中で辞めざるを得なくなったんです。
「最後までできなかった」という思いが心残りとしてある中、70歳を過ぎてから、好きだった絵を活かして「絵本だったら描けるかもしれない」と地域の絵本サークルに入りました。そこで手づくりのハードカバー製本を習い、自分の絵が立派な本になった感動が、今の絵本づくりにつながっています。
今回の作品『ぼうしの中には』は、どのようにして生まれたのですか?
市田:サークルで最初に作った絵本以降、なかなか次のアイデアが浮かばず悩んでいました。毎年地域のフェアに出品していたものの、納得のいく作品が作れず、いつも最初の絵本ばかりを出していたんです。「これではいけない。ちゃんとしたものを作ろう」と決意し、3年ほど前に制作したのがこの作品です。あるとき、30年前に聞いたお話がふっと頭に浮かび、「これだ」と感じて描き始めました。
▲今回の作品の元になった手描きの原画
物語のベースとなった、30年前のお話について詳しくお聞かせください。
市田:その頃、地域の子どもたちのための電話相談でボランティアをしていて、研修の合間に、ある塾の先生から聞いた一人の女の子のお話が忘れられなかったんです。その子は誰にも言えない秘密を抱えていたようで、授業中もずっと帽子をかぶっていました。理由はわからないものの、頭に小さなハゲができていたそうです。その塾の先生は、その子のことをずっと気にかけていて、つらい思いをさせてしまったのではないかと心を痛めていらっしゃいました。
絵本を作ろうと思ったとき、その頃の記憶が鮮明によみがえり、自分でも驚くほど一気に物語が完成しました。会ったこともない子ですが、「物語の中だけでも、最後は幸せな結末にしてあげたい」という想いで、この作品を作り上げました。
完成したお話を、どうして現在のような絵本に仕上げようと思われたのですか?
市田:最初は色鉛筆を使い、小さなサイズの絵本を手づくりしてフェアにも出品しました。その後、この作品をどう展開しようかと考えていたときにパソコンサークルを知り、デジタルで描くことに挑戦したんです。少しずつ操作を覚えてなんとかパソコンで絵を描き上げることはできたのですが、本として仕上げるには一冊が限界で、自分一人ではこれ以上きちんとした本にできないと悩んでいました。そんな折に病気で入退院を繰り返すようになり、「これからは何があってもおかしくない。自分がどんな人間だったのか、何も残らないのはもったいない」と強く感じるようになったんです。そこで、この絵本をきちんとした形として残し、子どもや孫、お友だちに手渡したいと娘に頼み、今回の制作が決まりました。
▲手描きの絵をもとにパソコンで制作した一冊
娘さんから見て、お母さまの創作活動や作品にはどのような印象をお持ちですか?
平川:身内として関係が近すぎるため、客観的に読めない部分があるんです。悪い意味ではなく、感情移入しすぎないよう、あえて少し距離を置いて見るようにしています。ただ、絵や脚本、パソコンと、へこたれずに何かを生み出し続けるバイタリティと、それを堂々と発表できるところは、すごいなと感じています。作品に魂を込めて創り上げることが、純粋に好きなんでしょうね。本当はもっと褒めてあげればいいのでしょうけれど、母と娘だとなかなか素直になれないんですよね(笑)。
この絵本のテーマや、読者に一番伝えたいメッセージを教えてください。
市田:先ほどもお話しした通り、私自身、幼い頃は体が弱く学校に馴染めない時期がありました。だからこそ、同じように悩んだり周囲に打ち解けられずにいる子どもたちの背中をそっと押し、一歩踏み出す勇気を届けたいと考えました。また、これは子どもだけでなく、大人や高齢者にも共通するメッセージです。歳を重ねて体調を崩すと心も沈みがちになりますが、少しの勇気で新しい道が開けることがあります。実は現在、新作を制作しています。そこでは学校に馴染めない子どもと、「誰かの役に立ちたい」と願うおばあちゃんが出会います。世代を超えてつながり、お互いが希望を見出していくような「化学反応」が生まれる作品になればいいなと思いながら描いています。
私は雑誌の編集経験はありましたが、絵本のデザインはわからないので、
クラウドソーシングサイトでデザイナーさんを募集したんです。
今回の絵本を「本」の形にするにあたり、どのような方法をとられたのですか?
平川:母の目的が流通ではなく「孫や知り合いにお分けしたい」ということだったので、必要な部数だけ自費出版で制作しようと提案しました。私は雑誌の編集経験はありましたが、絵本のデザインはわからないので、クラウドソーシングサイトでデザイナーさんを募集したんです。
「母の原画を大切にしてくれて、プロならではの視点で補足を加えていただける方」を探していたところ、陽葵ちまさんに出会い、そこから三人四脚での絵本づくりが始まりました。
プロの編集・デザインの方を入れたことで、絵本はどのようになりましたか?
市田:最初は必要ないと思っていたのですが、陽葵さんが細部まで直してくださったおかげで、ちゃんとした形になりました。一番こだわった口に出せない主人公の顔の表情や、机の端といった目立たない部分まできれいに修正していただいたんです。表紙のタイトル文字に帽子をかぶせたデザインも作っていただき、そのセンスはすごいなと思いました。また、おばあちゃんと女の子が夕焼けを見ているシーンと対比させて、最後のページに同じ構図で晴れ渡った絵を入れた方がいいと提案していただいたときは、本当に感動しました。
平川:母の原画を生かしつつ、本人も気づかないほど丁寧に手を入れていただき、全体のクオリティを底上げしてくださいました。レイアウトも、当初の「左ページに文章、右ページに絵」という形から、陽葵さんに相談して文字を絵の中に入れる見開き構成に変更したことで、物語の流れが一気に良くなりました。
▲絵の中に文字を配置し、物語の流れをスムーズに。
言葉の表現についても、いろいろとアドバイスがあったそうですね。
市田:男の子のお父さんの「ケンカはだれにもまけない」という言葉は、今の時代には難しいと指摘されました。ただ、変えてしまうとインパクトが薄れますし、不器用な親の愛情を伝えるために必要だと思い、あえて残しました。また、「ハゲ」という言葉も、人を傷つけるからと変更を勧められました。ですが、別の言葉に置き換えると子どもにはわかりにくくなりますし、自分の表現したいニュアンスとも違ってしまうので、そのまま残しました。考え抜いたお話なので後悔はしたくなくて、こうした大切なこだわりは娘を介して伝えてもらいました。ただ、私が遠慮して少し経ってから言うものだから、「最初に言って!」と娘には怒られてしまいました(笑)。
制作プロセスのなかで、とくに苦労された点はありましたか?
市田:自分の想いをどこまで伝えて、どこまで抑えるべきかの加減に悩みました。自分に自信がないというか、一度は納得して完璧だと思っても、次の日になるとまた違うところが気になってしまい、修正がキリなく続いて大変でした。
平川:明確な納期がない分、目の大きさや髪の長さなど、母のこだわりによる修正がエンドレスに続いたことですね。陽葵さんに「良いと思います」と言っていただけると母も安心するのですが、私だと「あんたは素人だから」と聞いてくれないんです(笑)。本人の想いに寄り添いたい気持ちはありつつも、行ったり戻ったりを繰り返していたので、想いのこもった作品を作るのはとても大変だなと思いました。
私の意見をいろいろと聞いて大変だったろうと思いますが、
娘にも本当に感謝しています。
絵本を作るにあたり、ガップリ!の絵本を選んだ理由を教えてください。
▲完成したハードカバーの絵本
平川:母の中で「絵本=ハードカバー」というイメージがあったので、対応している会社をネットで探しました。
その中で、はじめて絵本を作る立場から見て一番わかりやすかったのが御社でした。事前に用紙見本や絵本サンプルを送っていただき、手元でリアルに確認できたことも大きかったです。表紙や見返しなどの紙の違いを確認でき、仮製本の段階で用紙を変更するときにもすごく助かりました。
仕様については、母が以前取っていた見積もりデータを参考に、B5サイズ・32ページに決めました。
完成した絵本を手にしたときは、どのようなお気持ちでしたか?
市田:それはもう感動でした。途中でいただいた仮製本を見て用紙の変更をお願いしたのですが、おかげで納得のいく絵本づくりができました。表紙の夏らしい水色もきれいに表現されていて嬉しかったです。私の意見をいろいろと聞いて大変だったろうと思いますが、娘にも本当に感謝しています。その気持ちを忘れたらいけない気がして、今は毎晩寝る前にこの絵本を読んでから眠っているんですよ(笑)。
平川:本当にすごいと思いました。「ちゃんと絵本になったんだ!」って。まずは一つホッとしたという気持ちが大きかったです。自分自身にも、母にも、陽葵さんにも「お疲れ様」と言いたいですね。母の想いを十分に形にすることができたのだろうか。最後までそんな自問を繰り返していましたが、母がこれだけ喜んでくれているなら良かったです。それに、今回の絵本づくりを通して、母のバイタリティだけでなく、素人なりに一文字一文字にまで強い想いを込めているのだと改めて気づかされました。その姿に「作家先生じゃん!」と思いましたね。家族でささやかなお祝いパーティーを開いたとき、母に「先生、サインいただいていいですか」と頼んだら、嬉しそうに書いていましたよ(笑)。
▲絵本の見返しに書かれた市田さんのサイン
周囲に絵本を配られた際の反響はいかがでしたか?
市田:娘や孫、友人たちもすごく喜んでくれました。以前のフェアで『ぼうしの中には』を読まれた方より、主人公と同じ悩みを持つ孫に読んで聞かせたいと仰った方がおられたのですが、当時は一冊しかなくてお貸しできなかったんです。今回お渡しできてとても感激してくださり、同じ悩みを持つ方の心に響いたことがとても嬉しかったです。他にも、病院関連の冊子を作っていらっしゃる方がいて、エッセイ執筆を頼まれたりもしました。もう手元に半分ほどしか残っていないので、これ以上減ったら配るのが惜しくなりそうです(笑)。
▲出版を記念した、ご家族でのお食事会
最後に、ガップリ!で絵本を作ってみた感想をお願いします。
平川:正直なところ、ネット印刷は品質よりもスピードや納期を重視するものというイメージがあって、そこまで期待していなかったんです。だからこそ、仕上がりを見たときは良い意味で驚きました。思っていた以上に色がきれいに出ていて、再現性がとても高いなと。もし今後、同じように絵本を作りたいという人がいたら、ぜひ紹介したいですね。
陽葵ちまさんの個人サイトとSNS
- 個人サイト:https://www.pyocoryon.com/
- Instagram:https://www.instagram.com/pyocoryon/
70歳を過ぎても衰えることのない市田さんの真っ直ぐな創作意欲と、
ときには意見をぶつけ合いながらも制作を支え続けた
平川さんとの親娘の絆に感動しました。お話をありがとうございました。
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絵/うえはらよしこ様
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- なにがあっても
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画/谷口マリエ様
- おーい、仲間に入れてよ。
- 有限会社オフィスユキ 様
- あこちゃんとひみつのごはん
- 徳永陶磁器株式会社 様
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- NOOK 上巻
- tricolor(トリコロール) 様
- くじらの夫婦
- 小海町役場 様
- うずまきぐるぐる
- catable(きゃっとえいぶる) 様
- むぎ
- MUGI BOOK PROJECT 様
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