オリジナル絵本 インタビュー
『ウミガメのふるさと四日市みんなのふるさと四日市』

/ 海岸の清掃活動を、たくさんの子どもに知ってほしいという /
思いから生まれた、未来へつなぐ一冊。
かつてはウミガメも産卵に訪れていたという吉崎海岸。ここで長年、清掃活動を行ってきた方々が、この海岸や活動のことをたくさんの子どもたちに知ってもらい、ふるさととして心にとどめてほしいという思いから、絵本を制作しました。絵本は、活動メンバーの子どもたちによる絵や写真、文章で構成されており、A4横型という変形サイズにもこだわりがあります。清掃活動のメンバーであり、中心となってこの絵本を制作した下田菜生さんにお話をうかがいました。
清掃活動200回の記念に、思い出として形に残るものを作り、
みんなの思いをつないでいけないかと考えたんです。
下田さんは、どのような活動をされているのですか?
私は、地元の「楠地区まちづくり検討委員会」が主催する吉崎海岸の清掃に、毎月参加しています。この清掃活動は「NPO法人四日市ウミガメ保存会」も共催しており、同団体は今回の絵本づくりの主体にもなっています。
その海岸清掃は、どのようなきっかけで始まったのですか?
清掃活動を行っている三重県四日市市の吉崎海岸は、かつて四日市公害が深刻だった場所の近くにあります。
昔はこの海岸にたくさんのウミガメが産卵に来ていたそうで、「そんなきれいな海岸の環境を守り、その美しさをもっと伝えていきたい」という思いが、活動を始めるきっかけとなりました。
こうして17年前に清掃活動がスタートし、当初は20人ほどだった参加者も、今では毎月平均150人ほどが集まる活動へと広がっています。
▲毎月平均150人ほどが集まる吉崎海岸の清掃活動
活動がだんだん広まっていき、海岸もきれいになったんですね。
絵本のなかでは「すてきな場所」と表現しましたが、吉崎海岸は潮の流れの関係で、大雨が降ると大きな流木などが押し寄せ、海岸沿いに積み上がってしまいます。そのため、せっかく清掃しても、大雨のあとには荒れた状態に戻ってしまうのが悩みの種です。
それでも、民間の人たちの手によって管理された自然豊かな場所として、吉崎海岸は2023年に環境省から「自然共生サイト」の認定を受けました。2014年にウミガメの産卵が確認されたことや、砂浜がないと生きていけないような鳥や花、キノコなど、たくさんの生きものが存在している場所であることが認められたんです。
絵本のなかでは「自然共生サイト」という言葉は使っていませんが、それも絵本を通してアピールしていけたらなと思っています。
下田さんは、この活動には最初から参加されていたのですか?
いいえ。活動が始まったこと自体は知っていたのですが、そのころ私はまだ高校生で、住んでいたのも四日市市の山のほうでした。クラブ活動で川の調査をしてはいたものの、吉崎海岸まで行く交通手段がなく、実際に参加することはできなかったんです。
大学生になって行動範囲が広がってから、ようやく活動に参加しはじめました。ただ、私の場合は環境問題そのものよりも、みんなでひとつになって取り組む活動が好きで、そうした雰囲気に惹かれたところが大きいですね。
清掃活動から、どうして絵本を作ろうと思われたのですか?
海岸の清掃活動が17年目を迎え、今年(2025年)8月で200回に到達しました。その記念に、思い出として形に残るものを作り、みんなの思いをつないでいけないかと考えたんです。
吉崎海岸については大人向けの資料は多いのですが、子どもたちが興味を持つきっかけになるものが少ないと感じていて、せっかくなら活動に参加している子どもたちと一緒に絵本を作ってみてはどうかと思ったんです。
絵本の案を少し話してみたら、子どもたちが「やりたい!」とノリノリで、その声にも後押しされました。子どもたちが将来この土地を離れても「こんな活動をしたんだよ」と言えるものを残したいという思いもあり、絵本という形になりました。
この絵本で伝えたかったのは、どのようなことでしょうか?
何よりまず、吉崎海岸の存在を知ってもらいたいという思いがありました。
四日市には海岸線があり、船も行き来していますが、砂浜が残っているのは吉崎海岸だけなんです。でも、四日市市民でも、その存在を知らない人がまだまだいるのが現状です。
それで、この唯一残る海岸を守っていくには、まず知ってもらうことが大切だと考えました。そのため、清掃活動に参加している子どもたちの力を借りることにしたんです。
絵を描いてくれた子どもたちの名前やペンネームを巻末に載せて、学校などで紹介してもらえたら、絵本をきっかけに吉崎海岸のことを知ってもらえるのではないかと思いました。
絵本のタイトルには、どのような思いが込められているのですか?
「ウミガメのふるさと」は、ウミガメにまた帰って来てほしい、そして帰って来られる環境を守り続けたいという思いを表しています。
一方で「みんなのふるさと」には、絵本を読んだすべての人にとって、四日市が“ふるさと”のように感じられる場所になってほしい、という願いが込められています。一度でも四日市を訪れた人が「また来たい」と思ってくれたなら、それはもうふるさとと言えると思うんです。まだ来たことのない人でも、この絵本を通して「ちょっと行ってみたいな」「こんな活動をしているんだ」と興味を持ち、心のどこかにとどめておいてもらえたらうれしいですね。
表紙は絶対ハードカバーにしようと思いました。
せっかくきれいな表紙写真なので、
できるだけ傷まないようにしたかったんです。
下田さんは今回「監修」という立場でしたが、実際はどのような作業をされたのですか?
文字の部分は、私が絵や写真などを提供してくれた子どもたちから、どんな絵を描き、どういった思いがあるのかを聞き取って、それらをひとつのストーリーとしてまとめました。
子どもたちの生の声をそのまま載せる方法もありますが、そうすると全体の統一感がなくなってしまうと思い、今回はあえて私ひとりでまとめさせてもらいました。
子どもたちの作品を絵と写真のどちらかにせず、両方掲載したのはなぜですか?
写真を提供してくれた高校生は、撮影が大好きな反面、絵を描くのはあまり得意ではありませんでした。一方で、活動メンバーにはまだ幼稚園児の4歳の子もいて、絵なら描けるということだったんです。
そこで、それぞれが無理なく、自分の得意を活かしてもらおうと思い、絵と写真を両方載せる形にしました。
▲高校生の撮った写真と子どもたちの描いた絵
写真や絵に関しては、子どもたちに何かリクエストはされたのですか?
▲子どもたちの描いた絵の原画は、
清掃活動200回の記念イベントでも展示
吉崎海岸に関する絵本を作るから、「海岸での思い出を描いてね」とか、「自分のなかで印象に残っている写真を送ってね」とだけお願いして、あとは子どもたちに自由に任せました。細かい指示は一切していません。
ただ、クレヨンはほかの絵と重ねたときに汚してしまう可能性があったので、使用を控えてもらい、それ以外は絵の具でも色鉛筆でも、好きな画材を使ってもらいました。
絵本の文字を大きくして読みやすくしたのは、子ども向けに配慮されたからですか?
▲小さな子でも読めるよう、漢字にはふりがなをつけて
はい。まず、子どもたちに読んでもらうことを一番の目的にしていたので、文字が多すぎると読んでくれないかなと思ったんです。それで、言葉の量を減らし、文字も大きくして、漢字にはすべてふりがなをつけました。
絵を描いた子のなかには小学校高学年の子もいたので、小学校で習う漢字は使いつつ、ふりがながあれば小学校に入る前の子どもでも読めると考えました。
絵本を作るにあたって、「ガップリ!の絵本」を選んだ決め手は何でしたか?
大きさなどの仕様を選べる点が魅力でした。他社は100冊からが多いなか、最小ロットが50冊なのも大きかったです。最終的に100冊作りましたが、まず50冊から作れる見通しが立ったのは安心材料になりました。
また、「料金シミュレーション」で事前に予算の目安を把握できたのも助かりました。200回記念という節目でもあり、子どもたちも制作に参加していたため、費用面ではみんなで協力して出すつもりではいましたが、やはり限度はあるので、その点で判断しやすかったです。
絵本の出版費用は、海岸を清掃している皆さんで出し合ったのですか?
NPO法人四日市ウミガメ保存会のほうに相談し、「費用を年会費から出していいですか?」とお願いしたところ、200回記念でもあるし、年会費を納めているメンバーには1冊ずつ配るということで承認されました。
ただ、「メンバーに配るだけでは外に広がらず、それでは絵本を作る意味がないのではないか」という意見も出たんです。それで、メンバーと制作に参加してくれた子どもたちの分で50冊、さらに四日市市内の小学校や教育施設に配る分として50冊を見込み、合計で100冊がちょうどいいだろうという結論になりました。
絵本のサイズをA4横型にしたのは、どのような意図があったのでしょうか?
▲子どもたちが描いた絵をフルサイズで掲載するため、A4横型を採用
絵を描くとき、子どもたちは画用紙を横向きにして使うイメージがあります。それで、ページに余白を作らず、フルサイズで絵を載せたいと思い、A4横型を選びました。また、写真も横長が多かったため、それに合わせたかったのも理由のひとつです。
この横型は変形サイズでオプションだったのですが、今回の絵や写真を最も生かせる形だと感じたのでこのサイズに決めました。
「ガップリ!の絵本」の特長でもあるハードカバーには、こだわっていましたか?
表紙は絶対ハードカバーにしようと思いました。せっかくきれいな表紙写真なので、できるだけ傷まないようにしたかったんです。
最初はハードカバーや糸かがり綴じのことがまったくわからず、御社に何度も電話して相談しました。そのなかで、固くて長持ちするハードカバーを薦めていただいたんです。
また、絵本が完成していろいろな場所に置いていただいたときに、目に留まりやすくしたいという思いもありました。そうした点を考えると、やはりハードカバーが最適だと感じました。
絵本の印刷データは、下田さんが作られたのですか? 大変ではありませんでしたか?
子どもたちにはA4の画用紙に絵を描いてもらっていたので、それを自宅のコピー複合機でスキャンしてPDF化しました。PDFにするだけなら、それほど手間はかからなかったですね。ただ、そこから印刷用データに仕上げるとなると、やはり専門的な知識が必要で大変でした。たとえば、どうしてもトンボ(※)の作り方がわからず、その部分はガップリ!の絵本さんにお願いしました。
※印刷物の仕上がりサイズを示すために、ページの外側に入れる線。
子どもたちは「僕の描いたページ、これなんだよ!」と
見せ合ったりして、すごく盛り上がっていましたね。
絵本が完成したときはいかがでしたか?
子どもたちはもちろん、大人も本当に喜んでくれました。子どもたちは「僕の描いたページ、これなんだよ!」と見せ合ったりして、すごく盛り上がっていましたね。
この絵本は、かつてこの地域で起きた公害から現在までの回復の歩みを紹介し、再び海岸にウミガメが戻ってくる未来を描いたものです。
昔を知る方には当時を振り返るきっかけに、最近の状況しか知らない方には「こんな歴史があったんだ」と知っていただく機会となり、多くの方に喜んでいただけました。
清掃活動200回目の記念には、特別なイベントをされたのですか?
清掃活動200回目のときは、いつもの海岸で記念イベントを行いました。絵本の完成が間に合わず配布はできませんでしたが、印刷見本を拡大コピーしたものを広げて、高校生の子が朗読みたいなことをしてくれたんです。
絵を描いてくれた子どもたちも「あっ、これ、僕の絵だ!」と嬉しそうに声を上げて、とても喜んでいました。
▲200回記念イベントでの朗読の様子
この絵本は、メンバーや子どもたち以外に、教育機関にも配布されたんですよね?
活動に参加している方が地元の図書館に働きかけ、オープンスペースに「四日市ではこんな活動をしています」と紹介する特設コーナーを設けていただき、絵本も並べてもらいました。そのおかげで、いろいろな方に手に取っていただけたそうです。図書館の展示は月替わりということで、1カ月限定ではあったものの、「普通に本棚に1冊置かれるだけでは、きっと気づかれないだろう」という思いから生まれた企画が功を奏し、とてもいい機会になりました。
また、四日市市内の小学校に寄贈した絵本については、学校によって授業で取り上げてくださる予定もあるそうです。
社会科の公民分野の授業で読み聞かせを行いたいというご連絡もいただきました。絵を描いてくれた子ども以外からも、「学校の図書室で絵本を借りたよ」「学校で絵本を見たよ」といった報告が届いています。
清掃活動の今後の目標などはありますか?
具体的な目標があるわけではありませんが、絵本のタイトルにもある「みんなのふるさと」として、「いつ帰ってきてもいいよ」と言える場所であり続けたい。その思いで、これからも活動を続けていきたいと思っています。
清掃活動は、雨の日でもお正月でも、必ず毎月第一日曜に行っているので、何年ぶりでも、第一日曜に行けば必ずやっているという安心感を持ってもらえるんです。
今回絵を描いてくれた子どもたちの多くも、いずれは進学や就職で地元を離れます。それでも帰省したときにこの絵本を思い出して、「また吉崎海岸へ行ってみよう」と思ってもらえたらうれしいですね。
▲メンバーがいつでも帰れる場所であるために。毎月第一日曜に行っている清掃活動
最後に、「ガップリ!の絵本」のサービスをご利用いただいた感想はいかがでしたか?
連絡がとても早く、どんな質問にもすぐに返答していただけたので、とても進めやすかったです。
絵本づくりの経験がなく、初歩的なことから確認したい点がたくさんあったのですが、「お問い合わせフォーム」からポンと送っておけば、翌日には返事が返ってきました。作業にはもっと時間がかかり、完成は年を越してしまうかと思っていましたが、想定よりもずっと早く納品していただけてありがたかったです。
吉崎海岸に再びウミガメが戻ってくる未来を、私たちも心から願っています。
そして、四日市が、またこの清掃活動が、多くの人にとって「心のふるさと」と感じられる場所として
広がっていくことを期待しています。貴重なお話をありがとうございました。
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かつてはウミガメも産卵に訪れていたという吉崎海岸。ここで長年、清掃活動を行ってきた方々が、この海岸や活動のことをたくさんの子どもたちに知ってもらい、ふるさととして心にとどめてほしいという思いから、絵本を制作しました。絵本は、活動メンバーの子どもたちによる絵や写真、文章で構成されており、A4横型という変形サイズにもこだわりがあります。清掃活動のメンバーであり、中心となってこの絵本を制作した下田菜生さんにお話をうかがいました。
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みんなの思いをつないでいけないかと考えたんです。
下田さんは、どのような活動をされているのですか?
私は、地元の「楠地区まちづくり検討委員会」が主催する吉崎海岸の清掃に、毎月参加しています。この清掃活動は「NPO法人四日市ウミガメ保存会」も共催しており、同団体は今回の絵本づくりの主体にもなっています。
その海岸清掃は、どのようなきっかけで始まったのですか?
清掃活動を行っている三重県四日市市の吉崎海岸は、かつて四日市公害が深刻だった場所の近くにあります。
昔はこの海岸にたくさんのウミガメが産卵に来ていたそうで、「そんなきれいな海岸の環境を守り、その美しさをもっと伝えていきたい」という思いが、活動を始めるきっかけとなりました。
こうして17年前に清掃活動がスタートし、当初は20人ほどだった参加者も、今では毎月平均150人ほどが集まる活動へと広がっています。
▲毎月平均150人ほどが集まる吉崎海岸の清掃活動
活動がだんだん広まっていき、海岸もきれいになったんですね。
絵本のなかでは「すてきな場所」と表現しましたが、吉崎海岸は潮の流れの関係で、大雨が降ると大きな流木などが押し寄せ、海岸沿いに積み上がってしまいます。そのため、せっかく清掃しても、大雨のあとには荒れた状態に戻ってしまうのが悩みの種です。
それでも、民間の人たちの手によって管理された自然豊かな場所として、吉崎海岸は2023年に環境省から「自然共生サイト」の認定を受けました。2014年にウミガメの産卵が確認されたことや、砂浜がないと生きていけないような鳥や花、キノコなど、たくさんの生きものが存在している場所であることが認められたんです。
絵本のなかでは「自然共生サイト」という言葉は使っていませんが、それも絵本を通してアピールしていけたらなと思っています。
下田さんは、この活動には最初から参加されていたのですか?
いいえ。活動が始まったこと自体は知っていたのですが、そのころ私はまだ高校生で、住んでいたのも四日市市の山のほうでした。クラブ活動で川の調査をしてはいたものの、吉崎海岸まで行く交通手段がなく、実際に参加することはできなかったんです。
大学生になって行動範囲が広がってから、ようやく活動に参加しはじめました。ただ、私の場合は環境問題そのものよりも、みんなでひとつになって取り組む活動が好きで、そうした雰囲気に惹かれたところが大きいですね。
清掃活動から、どうして絵本を作ろうと思われたのですか?
海岸の清掃活動が17年目を迎え、今年(2025年)8月で200回に到達しました。その記念に、思い出として形に残るものを作り、みんなの思いをつないでいけないかと考えたんです。
吉崎海岸については大人向けの資料は多いのですが、子どもたちが興味を持つきっかけになるものが少ないと感じていて、せっかくなら活動に参加している子どもたちと一緒に絵本を作ってみてはどうかと思ったんです。
絵本の案を少し話してみたら、子どもたちが「やりたい!」とノリノリで、その声にも後押しされました。子どもたちが将来この土地を離れても「こんな活動をしたんだよ」と言えるものを残したいという思いもあり、絵本という形になりました。
この絵本で伝えたかったのは、どのようなことでしょうか?
何よりまず、吉崎海岸の存在を知ってもらいたいという思いがありました。
四日市には海岸線があり、船も行き来していますが、砂浜が残っているのは吉崎海岸だけなんです。でも、四日市市民でも、その存在を知らない人がまだまだいるのが現状です。
それで、この唯一残る海岸を守っていくには、まず知ってもらうことが大切だと考えました。そのため、清掃活動に参加している子どもたちの力を借りることにしたんです。
絵を描いてくれた子どもたちの名前やペンネームを巻末に載せて、学校などで紹介してもらえたら、絵本をきっかけに吉崎海岸のことを知ってもらえるのではないかと思いました。
絵本のタイトルには、どのような思いが込められているのですか?
「ウミガメのふるさと」は、ウミガメにまた帰って来てほしい、そして帰って来られる環境を守り続けたいという思いを表しています。
一方で「みんなのふるさと」には、絵本を読んだすべての人にとって、四日市が“ふるさと”のように感じられる場所になってほしい、という願いが込められています。一度でも四日市を訪れた人が「また来たい」と思ってくれたなら、それはもうふるさとと言えると思うんです。まだ来たことのない人でも、この絵本を通して「ちょっと行ってみたいな」「こんな活動をしているんだ」と興味を持ち、心のどこかにとどめておいてもらえたらうれしいですね。
表紙は絶対ハードカバーにしようと思いました。
せっかくきれいな表紙写真なので、
できるだけ傷まないようにしたかったんです。
下田さんは今回「監修」という立場でしたが、実際はどのような作業をされたのですか?
文字の部分は、私が絵や写真などを提供してくれた子どもたちから、どんな絵を描き、どういった思いがあるのかを聞き取って、それらをひとつのストーリーとしてまとめました。
子どもたちの生の声をそのまま載せる方法もありますが、そうすると全体の統一感がなくなってしまうと思い、今回はあえて私ひとりでまとめさせてもらいました。
子どもたちの作品を絵と写真のどちらかにせず、両方掲載したのはなぜですか?
写真を提供してくれた高校生は、撮影が大好きな反面、絵を描くのはあまり得意ではありませんでした。一方で、活動メンバーにはまだ幼稚園児の4歳の子もいて、絵なら描けるということだったんです。
そこで、それぞれが無理なく、自分の得意を活かしてもらおうと思い、絵と写真を両方載せる形にしました。
▲高校生の撮った写真と子どもたちの描いた絵
写真や絵に関しては、子どもたちに何かリクエストはされたのですか?
▲子どもたちの描いた絵の原画は、
清掃活動200回の記念イベントでも展示
吉崎海岸に関する絵本を作るから、「海岸での思い出を描いてね」とか、「自分のなかで印象に残っている写真を送ってね」とだけお願いして、あとは子どもたちに自由に任せました。細かい指示は一切していません。
ただ、クレヨンはほかの絵と重ねたときに汚してしまう可能性があったので、使用を控えてもらい、それ以外は絵の具でも色鉛筆でも、好きな画材を使ってもらいました。
絵本の文字を大きくして読みやすくしたのは、子ども向けに配慮されたからですか?
▲小さな子でも読めるよう、漢字にはふりがなをつけて
はい。まず、子どもたちに読んでもらうことを一番の目的にしていたので、文字が多すぎると読んでくれないかなと思ったんです。それで、言葉の量を減らし、文字も大きくして、漢字にはすべてふりがなをつけました。
絵を描いた子のなかには小学校高学年の子もいたので、小学校で習う漢字は使いつつ、ふりがながあれば小学校に入る前の子どもでも読めると考えました。
絵本を作るにあたって、「ガップリ!の絵本」を選んだ決め手は何でしたか?
大きさなどの仕様を選べる点が魅力でした。他社は100冊からが多いなか、最小ロットが50冊なのも大きかったです。最終的に100冊作りましたが、まず50冊から作れる見通しが立ったのは安心材料になりました。
また、「料金シミュレーション」で事前に予算の目安を把握できたのも助かりました。200回記念という節目でもあり、子どもたちも制作に参加していたため、費用面ではみんなで協力して出すつもりではいましたが、やはり限度はあるので、その点で判断しやすかったです。
絵本の出版費用は、海岸を清掃している皆さんで出し合ったのですか?
NPO法人四日市ウミガメ保存会のほうに相談し、「費用を年会費から出していいですか?」とお願いしたところ、200回記念でもあるし、年会費を納めているメンバーには1冊ずつ配るということで承認されました。
ただ、「メンバーに配るだけでは外に広がらず、それでは絵本を作る意味がないのではないか」という意見も出たんです。それで、メンバーと制作に参加してくれた子どもたちの分で50冊、さらに四日市市内の小学校や教育施設に配る分として50冊を見込み、合計で100冊がちょうどいいだろうという結論になりました。
絵本のサイズをA4横型にしたのは、どのような意図があったのでしょうか?
▲子どもたちが描いた絵をフルサイズで掲載するため、A4横型を採用
絵を描くとき、子どもたちは画用紙を横向きにして使うイメージがあります。それで、ページに余白を作らず、フルサイズで絵を載せたいと思い、A4横型を選びました。また、写真も横長が多かったため、それに合わせたかったのも理由のひとつです。
この横型は変形サイズでオプションだったのですが、今回の絵や写真を最も生かせる形だと感じたのでこのサイズに決めました。
「ガップリ!の絵本」の特長でもあるハードカバーには、こだわっていましたか?
表紙は絶対ハードカバーにしようと思いました。せっかくきれいな表紙写真なので、できるだけ傷まないようにしたかったんです。
最初はハードカバーや糸かがり綴じのことがまったくわからず、御社に何度も電話して相談しました。そのなかで、固くて長持ちするハードカバーを薦めていただいたんです。
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絵本の印刷データは、下田さんが作られたのですか? 大変ではありませんでしたか?
子どもたちにはA4の画用紙に絵を描いてもらっていたので、それを自宅のコピー複合機でスキャンしてPDF化しました。PDFにするだけなら、それほど手間はかからなかったですね。ただ、そこから印刷用データに仕上げるとなると、やはり専門的な知識が必要で大変でした。たとえば、どうしてもトンボ(※)の作り方がわからず、その部分はガップリ!の絵本さんにお願いしました。
※印刷物の仕上がりサイズを示すために、ページの外側に入れる線。
子どもたちは「僕の描いたページ、これなんだよ!」と
見せ合ったりして、すごく盛り上がっていましたね。
絵本が完成したときはいかがでしたか?
子どもたちはもちろん、大人も本当に喜んでくれました。子どもたちは「僕の描いたページ、これなんだよ!」と見せ合ったりして、すごく盛り上がっていましたね。
この絵本は、かつてこの地域で起きた公害から現在までの回復の歩みを紹介し、再び海岸にウミガメが戻ってくる未来を描いたものです。
昔を知る方には当時を振り返るきっかけに、最近の状況しか知らない方には「こんな歴史があったんだ」と知っていただく機会となり、多くの方に喜んでいただけました。
清掃活動200回目の記念には、特別なイベントをされたのですか?
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絵を描いてくれた子どもたちも「あっ、これ、僕の絵だ!」と嬉しそうに声を上げて、とても喜んでいました。
▲200回記念イベントでの朗読の様子
この絵本は、メンバーや子どもたち以外に、教育機関にも配布されたんですよね?
活動に参加している方が地元の図書館に働きかけ、オープンスペースに「四日市ではこんな活動をしています」と紹介する特設コーナーを設けていただき、絵本も並べてもらいました。そのおかげで、いろいろな方に手に取っていただけたそうです。図書館の展示は月替わりということで、1カ月限定ではあったものの、「普通に本棚に1冊置かれるだけでは、きっと気づかれないだろう」という思いから生まれた企画が功を奏し、とてもいい機会になりました。
また、四日市市内の小学校に寄贈した絵本については、学校によって授業で取り上げてくださる予定もあるそうです。
社会科の公民分野の授業で読み聞かせを行いたいというご連絡もいただきました。絵を描いてくれた子ども以外からも、「学校の図書室で絵本を借りたよ」「学校で絵本を見たよ」といった報告が届いています。
清掃活動の今後の目標などはありますか?
具体的な目標があるわけではありませんが、絵本のタイトルにもある「みんなのふるさと」として、「いつ帰ってきてもいいよ」と言える場所であり続けたい。その思いで、これからも活動を続けていきたいと思っています。
清掃活動は、雨の日でもお正月でも、必ず毎月第一日曜に行っているので、何年ぶりでも、第一日曜に行けば必ずやっているという安心感を持ってもらえるんです。
今回絵を描いてくれた子どもたちの多くも、いずれは進学や就職で地元を離れます。それでも帰省したときにこの絵本を思い出して、「また吉崎海岸へ行ってみよう」と思ってもらえたらうれしいですね。
▲メンバーがいつでも帰れる場所であるために。毎月第一日曜に行っている清掃活動
最後に、「ガップリ!の絵本」のサービスをご利用いただいた感想はいかがでしたか?
連絡がとても早く、どんな質問にもすぐに返答していただけたので、とても進めやすかったです。
絵本づくりの経験がなく、初歩的なことから確認したい点がたくさんあったのですが、「お問い合わせフォーム」からポンと送っておけば、翌日には返事が返ってきました。作業にはもっと時間がかかり、完成は年を越してしまうかと思っていましたが、想定よりもずっと早く納品していただけてありがたかったです。
吉崎海岸に再びウミガメが戻ってくる未来を、私たちも心から願っています。
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- TASCぎふコラボ展vol.8 虹色の木の下で
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- とのととどまる。~殿 ニューヨークへ行く~
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- 横瀬芽実依様
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- イトウってなーんだ?
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- てんぷら!声を聞かせて
- 社会医療法人同仁会 耳原総合病院様
- バリアフリー戦隊ダンサナクセイバー ~心のバリアフリー編~
- NPO法人自立生活センターSTEPえどがわ様
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- 群馬医療福祉大学 村山明彦様 山口智晴様
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